第2話 もっと近くに

海里の誘いで北川農場へ行きました。


電車で駅に着いた時、海里は農場の配達車で私を迎えにきてくれました。駅からバスで行くと15分程度なのに、わざわざ来てくださってというのは正直びっくりしました。のちに聞いた話だけど、海里は私が道に迷うことを恐れていたから迎えに来ました。いや、バス停は農場の目の前にあるのに、そして農場の前には大きな看板があるから、道に迷うなんてまずありえないでしょう。本当の理由は私と早く会いたいかもしれないと思うけど、彼はいまだにこれを否定し続けます。(笑)


農場に着いた時、まず驚いたのはその規模でした。郊外にある家族が経営する農場だと思っていたが、実際は結構大きく、生産する果物の種類も見本市で聞いた話より多かった。なぜこんな規模の農場は今まで東京進出しなかったのと聞いたが、海里の話によると、前は親たちと少人数の社員しかいなかったので、人手不足が原因で事業の拡大はできませんでした。今は海里と海斗が経営陣に参加し、そして地元の人、アルバイトをしたい主婦や学生さん、まだ仕事したい中高齢者を積極的に雇い、技術の取り入れなどの効果で、地元以外のところへ売り込むことができるようになりました。


海里と一緒に農場を回るうちに、彼の豊富な知識に感心しました。どんな質問をしても、彼は必ず丁寧にそして分かりやすくように説明してくれました。お昼ご飯は農場のみんなと一緒に食べることになって、彼と社員たちのやりとりから、彼は人望が厚い人ってよく分かりました。契約の打ち合わせは海斗が担当しましたが、海里はなぜかそこで私たちの話を聞いていました。普段はこういう商談は海斗に任せきりだけど、海里はあまり参加しないって後で海斗から聞きました。


帰りにバスで駅に向かおうとした時、海里から駅まで送ると言い出したから、また一緒に配達車に乗りました。車から降りる時、海里にある大きな箱を渡されました。中身は農場から採った数種類の果物で、どうやら味見して欲しいという理由だけど、さすがにこの量はサンプルにしては多すぎます。海里からの好意をありがたく受け入れましたが、実はその重い箱を家まで持ち帰るのは大変でした。


後日あげられた果物を食べた後の感想やどんなスイーツに取り入れるべきかのアイディアを海里にメールで送りました。まるで携帯をずっとチェックしていたように、彼の返信スピードに驚きました。それ以来、私たちはメールでいろんなことでやりとりをしていました。


でも、一番びっくりしたのは、知り合って半年ぐらい、海里からインスタでの友達申請が来たことだ。どうやら、北川農場はその時からインスタで商品や農場の宣伝をし始めたから、海里もその際個人のアカウントを作りました。記念すべき最初のインスタ友達は私なので、その申請を断るはずがありませんでした。普段で言うと、仕事で知り合った人と個人のSNSで繋がっていることが好きじゃないけど、海里に対してはそういう抵抗感がないのは今になって考えると不思議なことでした。多分その時から、彼を仕事上の知り合いとして思っていないのかもしれません。


海里のインスタは今になっても友達リストに私しかいないです。


海斗は海里のインスタが存在することを数年前に知ってから、何度も友達申請をお願いしても、海里はそれに応じませんでした。海里のインスタの主の写真は風景、農作物そして私たちが一緒に食べた料理だけなのに、何でこういう写真を海斗に見せたくないのか、私も理解できません。それに、写真付きのキャプションもいつも一言ぐらいしかないし、別に恥ずかしい内容ではないと思います。


インスタとメールでの交流によって、私たちは違うところに住んでいても、お互いの生活状況をある程度把握していました。



真由奈は農場に初めて訪れて以来、定期的に来るようになりました。大体2,3か月ごとに、新シーズンの商品を見て注文することが多いです。もちろん、彼女ともっと会いたいけど、中々そういうチャンスがありませんでした。


だけど、メールとインスタでのやりとりがあって、本当に助かりました。毎日会えなくても、真由奈の生活や趣味嗜好が分かるようになりました。そして、自分の生活も彼女に見せることで、俺のことを少しでも分かって欲しいという願いでした。


ああ、海斗のインスタ友達申請を受け入れなかった理由?ただ俺と真由奈だけの空間に邪魔させたくないからです。今は彼女と結婚したけど、それでも海斗に俺たちの“軌跡”を見せたくないから。


真由奈と出会ってから10か月ほどの時、俺は彼女に告白しようと思った。だから、ある日彼女を農場から駅まで送る時、駐車場で車を止めて、彼女に話があるから少し時間をくださいって言いました。


薄暗い駐車場で、俺たちはただ前を向いていて、窒息しそうな沈黙に包まれました。俺は中々勇気が出せなくて、真由奈はそれにちょっとイライラしているように見えました。車から降りようとする時、俺は彼女の腕を掴んで自分の方に引き寄せて、そのまま抱きしめました。真由奈は驚いたけど、俺を突き飛ばしていませんでした。


「順番は違うでしょう?まず告白しないと。いきなり抱きしめてずるい。」

「俺が告白すること見抜かれた?」

「だって、すごく緊張しているから、言葉も詰まっているし。いつもの海里じゃないから、絶対何かあると思った。」


俺は真由奈を放して、二人はお互いの目をしっかり見つめていました。


「真由奈が好き。俺と付き合ってくれる?もちろん、遠距離恋愛は難しいけど、俺は頑張るから。真由奈のことを幸せにするから…」


告白の途中、真由奈が俺の唇にキスしてきた。俺は手で彼女の頬を包んで、キスをさらに深くした。ようやく離れた時、真由奈は笑っていました。


「口は下手だけど、キスは上手いだ~」

「真由奈が先にキスしたから、ついコントロールできない…」

「海里って可愛いね」

「あなたの方は可愛い」

「私にそんなに惚れたんだ?」

「返事はまだ聞いてない」

「もうあんなにキスされたのに、もちろんYESだよ」


その返事を聞いた俺たちは笑い出して、そのまま抱き合いました。車内というところはあまりロマンティックではありませんが、私たちはその狭い空間で初めてお互いの気持ちを確かめました。


電車の時間まで、俺たちはずっと一緒にいて、最後の最後まで離れたくありませんでした。でも、電車の時間になって、仕方なく真由奈を東京に帰らせました。


その日から、俺たちの遠距離恋愛物語は始まりました。

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