第4話 結婚への道

突然の逆プロポーズで海里の驚いた顔を今でも覚えています。


でも、これは衝動的な決定ではありません。コロナ禍で私たちの状況がいろいろ変わって、それですごく大変だったけど、それと同時にいろいろを見つめ直せると考える時間も増えました。


海里との関係はある程度安定し、お互いを将来の結婚相手として見ていました。だけど仕事の事情で、結婚することはもうちょっと先だという認識がありました。


この先はどうなるか分からない状況に、海里と会えなくなり、一緒にいられないことのせいで、今までにない不安に襲われました。ずっと自分は一人でも生きられるタイプだと思っていたが、初めて心細いという気持ちを体験しました。大変な時に誰かを支え、誰かに支えられるって実は大事なことです。当たり前と思っていた日常はいつ変わっても可笑しくないこの時代では、やりたいことをすぐにやらないといけないという危機感を感じました。


もちろん、今の仕事を続けたいけど、でもそうするために、海里と遠距離のままになります。悩んだ末、今自分にとって一番重要なのは何なのかが分かりました。それに、結婚しても、仕事も続けるし、ただ形を変えて海里の仕事をサポートしたいと思います。


だから、海里のところへ行って直接プロポーズしました。


彼は一瞬戸惑っていましたが、やっと状況を理解し、すごく強く私を抱きしめ、プロポーズを受けました。


でも、あまりにも焦っていたので、周りにたくさんの「観客」がいることを忘れてしまいました。そう、海里は農場で仕事している最中、私の逆プロポーズを受けました。従業員、海斗そして海里の両親もその場で私たちの一大イベントを目撃しました。みんなから大きな拍手喝采を受けながら、どこかに隠れたいぐらい本当に恥ずかしかった。


だけど、結婚ってそんなに簡単ではありません。ただ入籍するだけで済むことではないんだってことが、それから分かってきました。



参ったなあ。真由奈に先に越されて、逆プロポーズされました。


実は真由奈へプロポーズするために、俺はすでに指輪を買いました。逆プロポーズされた後、真由奈を自分の部屋まで連れて行き、彼女の指に用意していた指輪を嵌めました。サイズはちょっと大きすぎるから、後日店に戻って直してもらう必要はあるが、真由奈はそれを気にしていなかったし、むしろ俺と結婚に対して同じ考えだと分かって、すごく喜んでいました。


俺たちが付き合っていることは結構早い段階で両家に知られていました。うちの場合は俺が頻繁に携帯を弄っていたところを海斗に怪しまれ、そして真由奈と駅前でデートしたところを偶然見てしまい、それでバレてしまいました。それから交際二年目のお正月の時、真由奈の両親にも紹介されました。


でも、結婚の挨拶は格別に緊張しました。


「娘さんをください」というようなセリフって、一生言わないと思っていました。いざという時、真由奈の両親の前でその一言を見事嚙んでしまいました。感動的な瞬間が爆笑の時になってしまったけど、ご両親は俺たちのことをずっと暖かく見守ってくださっていたので、結婚の件も当然応援しました。


挨拶を済ませてから、結婚の日と形式を決めなければなりません。元々真由奈の考えでは新年度が始まる前に退職するつもりでしたが、上司に春から入社する新人のトレーニングをさせて欲しいと言って、夏のピークの前に辞めることになりました。それによって、結婚式は夏以降にやる方がいいと思っていました。先に入籍してもいいが、二人の交際記念日は10月だから、やっぱり入籍と結婚式を同じ日にしたかった。


コロナ中なので、盛大な結婚式をやらない方がいいと思い、農場で式を挙げることに決めました。式場や教会でやるのもありだけど、やっぱりこっちは俺たちの原点で、そして開放的なところで三密などを気にしなくてもいい。家族、農場の従業員と親しい友人しか呼ばないけど、俺たちにとってはこれで良かったと思います。


真由奈は仕事を辞めてからこっちに引っ越す予定だけど、俺は今農場敷地内の実家に住んでいます。この狭い部屋で新婚生活をスタートするには良くないと思って、それに新婚なので二人のスペースが欲しいし、おまけに実家の隣に自分たちの家を建てるにはちょっと時間がかかります。それで、まず臨時の新居を探すことになり、幸い農場から車10分のところに新築のマンションを見つけました。それで、俺たちは8月ごろに一緒にこのマンションへ引っ越しすることになりました。


付き合って5年目の夏、ようやく同じところに住めるようになった俺たちは、もうちょっとで夫婦になれます。本当にワクワクしながら、その日が来るまで待ち遠しいです。

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