今際の君と

「あーー……声がもう出ないーー」

「高い声の出しすぎだ」


共通の趣味、「音楽」。そして陰湿な俺らが休日に遊びに行く場所と言えば無論「カラオケ」。

俺等は今日カラオケに来ていた。それも昼の2時からずっと。フリータイムで入ったので8時まで居れる。

ただ正直6時間もカラオケに居ては喉も壊れるし何より曲のレパートリーが足りない。俺らは休憩を挟んでいた。

二人で来た割には大きい部屋。5人ほどで座れそうな逆L字に置かれたソファに物を置く関係で離れて座っていた。


「そういや今何時?」


そういわれ不意にスマホに目を落とす。画面を叩くとぼんやりと光が発せられた。そろそろ充電が切れそうだ。


「4時半、こう思えばまだ半分も経ってないんだね」

「え、私もう疲れたんだけど」


そういうと明音はグッと腕を伸ばし気の抜けたあくびをした。

それにつられ俺も小さくため息をついた。


「それに私めっちゃ眠たいんだけど」

「俺も、瞼が重たい。明音昨日何時に寝たの?」

「大体5時とかじゃないっけ」

「え、夜の?」

「うん、寝落ちしたから覚えてないんだよね」

「そんな遅くまで何してたの……?」

「ずっと同じ曲を繰り返してたよ」

「よく飽きないね」

「暇人ですから」


そういうと明音は首を掻いた。

首にかかった銀のネックレスと左耳で光るピアスに自然と目が行く。

ピアスはともかく銀に綺羅めくネックレスはまるで反応を起こしたのだろうか。その首の赤さをよりいっそ引き立てていた。


「終わりって8時だよね?」


不意にこちらに顔を向けられ視線がぶつかる。

なんだか俺がずっと顔を見ていたかのように思われて仕舞わないか心配になる。


「そうだ……ね、後3時間ちょい、まだ全然時間あるね」

「私寝ていいかな?」

「は?」


予想外の言葉に枯れた声は裏返ってしまった。


「割と時間あるし眠たいし、夜も遊ぶよね」

「まぁ、終わったら晩飯食べたいとは思ってるけど」

「だから今のうちに体力回復させとこ?」

「まぁ、割とあり?なのか?」


俺も歌い続けたし夜遅くまで起きていた。くたびれてはいるが、寝る程ではない。

だが目を瞑ってゆっくりとしたい気持ちはある。


「じゃ、私寝る、おやすみ」

「お前は自由だな……おやすみ」


そういうと明音は、大きなソファに横たわり着てきたアウターを毛布代わりにすると、手足を縮めて赤ん坊のような体制で瞼を閉じた。

俺も何とはなしに座って瞼を閉じる。その瞬間、自然とあくびが漏れた。どんどんと憂鬱な気分になっていく。

だがそもそもあまり眠くなかったせいかいくら待っても寝れない。というかそもそもテレビの画面で永遠と流れているコマーシャルが耳障りだ。

さすがにカラオケでは寝れないかと目を開ける。

明音の方を見るとこちら側を向いて寝ていた。

口が少し開いている。確か口を開けて寝るのは危険だった気がするがどうしようもないと思い滑稽に思うだけで済ませた。

することがないが歌えばノイズ。邪魔になるだろうとスマホの電源を入れるが……


「嘘だろ……!?」


いくらボタンを押しても反応しない。試しに長押ししてみるがそれでもスマホは期待していた反応を示さなかった。

これは……おそらくまれに起きる充電切れ。ずっと家にいて、いつ何時でも充電ができた俺にとって充電切れは大変にレアケース。

記念にスクショしておこうと電源を入れるが充電はない。


「違うわ、充電切れてんだ」


自分のしたおかしな行動に自然と笑みが漏れる。

だがそんな笑いもすぐに消える。頬が疲れた。表情筋に入れていた力をすっと抜く。

これはいわばすることのない、いわゆる暇というやつで……つまり俺は今やるべきことがない。ということか。

することがないせいで何も量産性のないことを考える。時間を無駄にしたくないなと不本意に明音に目線を送る。

どうやら明音は本当に疲れていたようで、気持ちよく眠っていた。見るに体のどの部分にも力が入っていない。こんなに無防備なことがあるというのか……。

さすがにアニメや小説のような展開にはしたくないので目を瞑る。いっそのことこのまま眠って仕舞いたい。

目を閉じて考えることは、あえて案を出すとするならば「詩」だろうか?だが構成はほぼ決まっていない。というかカラオケで詩は考えられない。

確かに詩を作るのは妙案だが俺は無音でなければ集中できない。コマーシャルが永遠と聞こえるカラオケではやはり無駄だと目を開ける。

不意にそういえば人の寝顔は撮るという謎の文化があったのを思い出しスマホを手に取る。ボタンを押して電源を付けようとするが、


「つかな……違う、何してんだ俺」


俺は本当に疲れているのだろう、こんな滑稽な物事SNSにあげるしかないとスマホの電源を入れようとしたところでまた、

俺はスマホに充電が足りないことに気が付いた。

それと同時に本当に自分が疲れているのだろうと理解した。

いっそのこと寝れるまで何も考えまいと目を瞑ろうした瞬間、

ピコっとかわいらしいSEがが流れた。

なんだと思い見ると明音のスマホからだった。人のスマホを覗き見るのは人としてどうかとは思うがどうせ寝ているのだし都合がいい。

覗き見るとそれはみんな使っている有名なトークアプリだった。

パッと見た感じだと通知がたまっているようで「天の川銀河に生命の可能性!アンドロメダからの……」といういかにも胡散臭いニュースが目についた。

が、今の俺からすればどうでもいい。それよりも気になる文字が見えた。


ロック画面の背景をメモにするタイプの人のようで、時間の下に書いてあった黒文字の明朝体。

「5日目」

この文字の意味を理解することは俺にはできなかった。

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