晩碍
飲み物を取ろうと缶に手を伸ばし取るが重さに違和感を覚える。
ひっくり返すとエナジードリンクは空になっていることが分かった。
「うわ、もうないのか」
誰に言うわけでもないがそう呟く。
都合が悪いなと歯ぎしりを起こした。
「酒が確か残ってるよな」
暖房の効いている部屋。もはや暑すぎるこの部屋から出るのには少し躊躇してしまう。
面倒だが自分以外に誰が動くというのだろうか。仕方なく何も音が流れていないイヤフォンを取った。
取った瞬間にパソコンからファンの音が耳に届く。耳障りだが気にするだけ無駄だろうと夜中だというのに残っている寝ぐせのついた髪を強く掻く。
今まで全然気にしていなかったが立ち上がろうとして気が付いた。
暗い部屋。パソコンの明かりだけがボウっと光り、キーボードを小さく照らす。
見ると隙間に白いゴミが大量に詰まっていた。まさかと思い机の上を見るとそこにも白く小さいゴミが目立つほど落ちていた。
きっとふけだろう。別に気にする程度じゃないだろうと椅子から立ち上がる。
「上書き保存……しとくか……」
立ち上がったのはいいが詩を保存するのを忘れていた。
とりあえずキーボードの左下とSを同時に押す。
用が済んだとリビングまで歩く。
――ガッと、ゴミ箱を蹴る音がする。
扉を開けると廊下の風が一気に流れてくる。
中途半端に冷たい。
さすがに夜も遅い。廊下からリビングや隣の部屋の扉の隙間を見る。どこからも光を感じることはできなかった。
とにかく今は飲み物が欲しい。止まっていた足を動かす。
リビングに近づく程、水の流れる音が聞こえた。それと同時にバタバタ、とガラスの壁を叩くような音がする。
気になりそっちを見れば何匹かの亀がガラスを割るほどの勢いでこちらを見て一生懸命足を動かしていた。
夜行性でもないのに餌を求める亀の姿はいつ見ても滑稽だ。脳がない生き物は育てがいがあるなと鼻で笑う。
そう考えているとあっという間に冷蔵庫まで着いた。
扉を開けると光が一斉に漏れ出す。なんてことはなく食材が大量に詰まっており光が遮断されていた。
目線の先にあるグレープ味と書かれた缶を取り出すと思いっきり扉を閉める。
勢いとは考えられないほど扉は静かに締まり静かに舌打ちをする。
「ん?そういや餌やってないのか?」
戻ろうと動かしていた足を止める。
亀たちは一生懸命にこちらに向かって泳いでいた。餌を求めていると思ったが暴れているのが2体。確か水槽の中には7匹いたはずだが……
さっきは目が悪い且つ暗かったせいでいつものように餌を求めているのかと思ったがこんな時間に暴れているのはおかしい。
水槽の中を見ると若干赤い。水に赤い、なにかが浮かんでいた。
「うわ、また共食いか……」
まさかと思い亀の尾を見ると普段は長い尻尾が2匹とも、途中から無くなっていた。
尻尾が無くなった亀はこれで5体目。腹が減って虫の居所が悪いのは分かるが共食いするまでではないだろうと亀の滑稽さにため息が漏れる。
どうせ自分には関係ないだろうと無視して部屋まで向かう。
さっきまで冷蔵庫に入ってあった缶を持っているせいで手が凍える。
が、自分の部屋が近づくにつれてどんどんとその寒さが失われていく。
「しまった、ドア開けっぱだ」
ドアを足で押す。簡単に開いたドアを逆に蹴るとドンっと大きな音を立ててしまった。
寝ている家族に申し訳なくなりながら椅子に座る。
「あっ」
パソコンに向かうとともにさっき飲み干したエナジードリンクに目が行く。
飲み物のことばかり考えており完全に捨てることを忘れていた。
「めんど、いっか」
缶を捨てることでさえ不精してしまい目につかない位置まで缶を離す。
イヤフォンをしてキーボードに指を置く。
「……」
喉が渇いた。
キーボードから手を離し缶を開ける。
――カシュっといい音を鳴らす。と、同時に口元まで持ってくる。
口腔を炭酸が襲う。が、それに抗い勢いよく喉へ流していく。
喉奥が冷たくなるのが分かる。口内が潤っていく。
缶を置くが音は聞こえない。
目をこすり小さく光る画面へ目線を送る。
キーボードに指を置きまた、集中を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます