第41話 ティナの戦友 快気祝い

 スピランスとの手合わせを終えて、エルモアがティナのいるガゼボに戻ってきた。


 「エルモアどうだった」


 スピランスは噴水の縁に腰を下ろして、肩で息をしている。


 「もう、久しぶりすぎて構えはガタガタ、動きはバラバラで。申し訳ございません私このような言葉づ


 「構うな。気分は良さそうだな」


 「はい。先ほどまでの気分とは打って変わって」


 「どうだ昼食をここでしないか?」


 「外でですか?」


 「何を言う。獣人相手の時は外ばかりではなかったか?」


 「そうでしたね、忘れてました」


 「バト。料理長に伝えて欲しい。昼食は外で食べるとな」


 「ティナ陛下ぁぁぁぁあ、少々お待ちぃぃぃくださぁぁい」


 イテリスを相手にしながらテルユキが声をかけた。


 「イテリス手を緩めるな。テルユキが話ができるではないか」


 「はい。陛下。テルユキ様ぁぁぁぁ」


 「イテリス様ぁぁぁぁあああ」


 「バト。少し待ってくれ」


 「了解」


 「しかし、エルモアさっきまで寝ていたのにあそこまでよく動けたな」


 「陛下。それもですが、この槍ですが私の槍を直したのですか?」


 「いや、お主の槍はここにあるぞ」


 メイドがテーブルに真っ二つのままの槍を置いた。


 「では、こちらの槍は?」


 「使いにくいのか?」


 「二十年以上修練をさぼったのに不思議なぐらい体が動いて。感がもっどたみたいに。それでまったく違和感が無いのです。その槍と」


 真っ二つの槍を指さした。


 「それは良かったな。で、強度の方は」


 「問題ありません。と、言うより良くなっていると思います。それに私の魔力線と繋がってます。術式を唱えるのも可能です」


 「良かったな。それはお主の物だ。二代目として可愛がってやれ」


 「しかし、こんな素晴らしいものをいつの間に作られたのですか?ドワーフでも無理でしたのに」


 「テルユキだ。おいテルユキこれはどうやって作った?」


 「はいぃぃぃ。エルモア様の槍の持っている諸元とぉぉぉおおお、経験値、槍術の型も一緒にコピーしまぁぁぁぁしたぁぁぁぁ」


 「諸元とは何だ?」


 「元の槍の材質や性能ぉぉぉ、形状、性質、諸々おおおおうっでぇぇぇぇす」


 「経験値は?」


 「ああああぁぁぁぁえいっと、エルモア様が元の槍と戦ってきたそのぉぉ槍がぁぁ持っていたぁぁぁ経験ですぅぅぅと」


 「槍術の型は?」


 「ティナ陛下、のぉぉぉちぃぃぃほどでは、あああだぁぁぁぁ


 「だめだ今、話せ」


 「エルモア様がぁぁぁぁ持ってぇぇぇいる型が次に出る攻撃をぉぉぉ槍が記憶していてその術を繰りぃぃぃおっと、出しやすくしている事です」


 「エルモアそのんな術が入っていたのか?」


 「みなには内緒にしていたのですが。ドルドが私の魔力線からその術を槍に記憶させる事が出来るようにしたのです。ですので他の職人にはできない仕事でした」


 「なるほどな。テルユキがやってのけたと テルユキ。コピーとは何だ?」


 「模造品ですぅぅぅ」


 「偽物か?」


 「はいぃぃぃ」


 「本体の素材はどうした?」


 「館をぉぉぉ建てた時のぃぃぃぃ素材が残ってぇぇぇぇいたのでぇぇぇそれで作りましぃぃぃおぉぉぉぉたぁぁぁ」


 「イテリス。何をしている、テルユキにまだまだ余裕があるぞ」


 「テルユキ様ぁぁ。お待ちくださいぃぃ。とぉぉぉりゃぁぁぁ」


 「いえいえ。偽物ではありません。使い勝手も何もかも、元の槍より数段上です」


 「良かったな」


 「はい。なんとお礼をすれば」


 「テルユキに聞いてくれ。なんならイテリスでも嫁にやっとくか?」


 「それでしたらテルユキ様がよろしければいつでも」 


 「ティナ陛下?昼食はいかがいたしますか?」


 ミルルが二人の会話に割って入った。


 「そうだな。イテリスそろそろ終わりにしよう」


 「はい陛下」


 「ご苦労だったな。テルユキ待てとは何だ?」


 「こちらでお食事を召し上がると言う事で良いでしょうか?」


 「ああ、ここで頂こう」


 「わかりました。ちなみに食事の内容は何でも問題ありませんか?」


 「肉から血が流れて無ければ何でもよいぞ」


 「少々お待ちください」


 テルユキとバトスメル、スピランスが屋敷に戻っていった。 


 ミルルが今のうちにとリアティナのお乳をティナに薦めた。


 ガゼボの周りを側仕え達と警備兵が囲み、メデスとエルモアがティナの両側に付いた。ミルルは屋敷への通路にイテリスはその反対側に立った。

 

 「そういえばスピランスはどうだった」


 ティナが授乳しながらエルモアに聞いた。


 「おそらく私の全盛期で互角以上。ハリバットにも余裕で勝てるでしょう。槍相手ならば負けなしと思います。強いて言うなら持続力が今の私より短い事でしょうか」


 「本物だな」


 「はい、勇者と名乗って良いでしょう」


 「ああそこな、勘違いしないで欲しい。あ奴ら自分達から勇者と名乗ってはおらん」


 「そうでしたか」


 「どこからともなく皆がそう言っているだけで、あ奴らは驕ってはおらんよ」


 「だからこそ皆が勇者と彼らを呼ぶんですね。私の周りに居た者達は少し強くなると皆死んで逝きましたから」


 「ああ威張り散らして周りを見下して、過信して、自分を見失うからな。ただ、スピランスの持続力が少ないのはまずいな。少々鍛えてやってくれ」


 「畏まりました」


 「イテリスは見た感じどうだ」


 「全くダメダメですね。今までノーデスは何をしていたのやら。私が一から鍛えなおします」


 「そうしてやってくれ。あとヤルトスもな」


 「はい。畏まりました。私自身もこの年ですがまたやります」


 「何を言う。まだまだ現役だ。我のためにまた働いてもらう。頼んだぞ」


 「お任せください。生き帰らせていただいたこの恩は忘れません」


 テルユキ達一団がガゼボに向かって来た。


 「お待たせいたしました」


 「テルユキ。今。ティナ陛下が授乳中。少し待って」


 ミルルが通路で両手を広げて立ちはだかった。


 「おっとそうでしたか、ではここで準備しますね」


 ティナのガゼボから屋敷側へ少し行ったところで横長のガゼボを作ってその中に台を作った。台の横にはバーベキューコンロも作った。


 厨房の者達が次々と食材や飲み物を持ってきてそこへ並べ始めた。そして、バーベキューコンロの上で料理長が食材を焼き始めた。


 辺り一面に炭火と薪、肉や野菜の焼ける香りが漂い始めた。


 周りは先に食事を済ませた警備兵が今までの兵と交代し警戒を始めた。


 「テルユキ。これは良い企画だ気に入ったぞ」


 ガゼボの中から声を掛けた。


 「ありがとうございます」


 「あの真っ黒な塊はなんだ?赤く熱を帯びているぞ」


 「あれは、炭と言います」


 「後で詳しく聞こう」


 「畏まりました」


 「メデス、酒はまだ駄目か?」


 「なりません。まだ授乳中です。もうあと一か月お待ちください。リアティナ様の為です」


 「そうかしかたないな」


 焼きあがった食材がティナのガゼボに運ばれてきた。


 ティナは授乳が終わったリアティナを抱きながら、食事を始めた。


 メデスが切り分けティナに差し出している。


 「良い雰囲気だな。庭を眺めながら食するというのは。エルモアどうだ?」


 「はい。昔を思い出しますね。あの頃は一日でも早くゆっくりと家で食べたいと毎日思っていたのにいまこうして頂くのは何か贅沢に思えます。勝手なものですね」


 「気分はどうだ?」


 「そういえば私、病気だった」


 「何のことだ?」


 二人は顔を合わせて大笑いした。リアティナは不思議そうに二人を見ていた。


 隣のガゼボではイテリスが歓喜で泣いてしまい、ミルルがなだめていた。


 「ミルル様、母は何故あのように元気になったのでしょう?」


 「ティナ陛下もおっしゃっていましたが、お母様が生きる目的を見失ってしまっていたのでしょうね。それにずっと相棒だった槍が折れたタイミングも悪かったのでしょう。余計に前に進めなくなっていた。テルユキが槍を作って嬉しくなってスピランス相手に遠慮なくぶつかって何か吹っ切れたのではないかしら」


 「なんとなく分かった気がします。槍のご恩に私からテルユキ様に何かお礼をした方が」


 「何もいらないわよ。気にしないで」


 「しかし、このままでは」


 「よく考えて。イテリスがそんなことをしたらノーデス様もヤルトスさんバトスメルまでしなくちゃいけなくなる。ましてやエルモア様までよ。だからそんな大袈裟に考えないでいいわよ」


 「そうですか。もし良ければ私を


 「いいのよ。ほんとぉぉぉぉに何もしなくていいのよ」


 「わかりました。ミルル様に迷惑が掛かるのならば諦めます」


 「い いや、あのね。もしもし、イテリスさん私はちっとも関係ないわよ」


 「では、私をお礼にもらって


 「いや、それはやめた方が良いわよ。もっと自分を大事にしなさい。イテリスは今いくつ?」


 「今年十八です。婚約相手も居ません」


 「私より年下?テルユキと同い年?あぁぁぁぁぁぁんな男に、あなたみたいな素敵な女性は勿体ないわ。ゴブリンのメスで十分よ」


 「ゴブリンってメスが居るんですか?」


 「例えよ例え。しかも昨日会ったばかりの男にそんな感情は普通湧かないでしょ」


 「私の周りの友人たちなどは、小さなときに許嫁とか全く会った事の無い相手と婚約とありますのでそういった感情は無きに等しいと」


 「そうらしいわね。聞いたことあるわ。本人の意思は全く無視って。ひどい話よね」


 「そうですか?それが普通とばかり」


 「だからイテリスは貴方が好きと思う男性を見つけて結婚しなさい。周りに流されてはダメよ」


 「そうですね。ならばまずはお付き合いからと言う事で、テルユキ様に」


 「いや、だからあいつはやめた方がいいわよ。まだ知らないどこかの男と婚約した方がましよ」


 「そうでしょうか、お噂はかねがね聞いております。会って確信しました。とてもお優しく、良いお方と。父も母もおそらく認めてくれるのではないかと」


 「いや、ダメね。恐らく、きっと必ず絶対反対されるわ。冒険者よ家には帰らないし、いつどこで死ぬか解らない奴なんかダメよ。そもそも素性もわからない奴なんだから」


 「ミルル様達はそんなテルユキ様と一緒でいいのですか?」


 「私達はいいのよ。もう五年も一緒だし。同じ冒険者だし、何も問題は無いわ」


 「では、ミルル様達、勇者様達が信頼しているのであれば何も問題ありませんね。私が家を出て冒険者になって、テルユキ様とそのけっ、けっ こ ん して一緒に冒険を


 「ちょ、ちょぉぉぉと待って、何言ってるの?早まった事言わないの。あなたは、ここの大切なお嬢様じゃない。もうすぐとってもお似合いのいい男が見つかるわよ。

あいつ滅茶苦茶貧乏だし」


 「あの、もしかしてミルル様はテルユキ様の事がす


 「ああああっと。お肉取ってくるわ。イテリスは何が欲しい?」


 「あの私は」


 ミルルはガゼボから飛び出していった。


 テーブルには食べきれないほどの料理が並んでいる。

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