第15話 新人訓練

 崖の下の簡易城壁


 崖に向かって半円状の城壁。横幅はおよそ百メートル、高さ五メートル城壁の幅は五メートル。崖までの最長部は五十メートル。


 ゴブリンの弓矢や投石を防ぐため、天井部は屋根が築かれ、内側に向かって窓が開いている。


 城壁の内部は空洞で廊下になっていて、ライト率いる新人の弓兵たちが窓から崖を伺っている。


 城壁の内側。半円状の広場の城壁の前にラミル率いる新人の軽装兵と熟練兵が整列している。


 「ラミル姉さん、下の奴らニ十匹。地面まで二十メートル。もういいかな?丁度狙い目なんだけど」


 「上の十体は四十メートル付近か。ライト、両側の城壁に近い奴を五匹ずつ落として」


 「了解ラミル姉さん。弓兵へ指示。左右の城壁近くにいる五匹を射落とせ。私より左の者は右の城壁側、右の者は左の城壁側を狙え。放て」


 ゴブリンが張り付いている崖に矢がザクザクと刺さり始めた。


 新人弓兵の後ろを上官弓兵が指導しながら歩いている。


 「距離があるぞしっかり狙え。そこ脇が開いているぞ」


 「はい。それで上官質問があります」


 「矢を射ながら言ってみろ」


 「はい。なぜ正面を狙わず斜めなのですか?」


 「半円の急ごしらえの城壁だ。窓が小さく正面を射ると窓枠が邪魔になる。だから窓枠の正面になるように右側のこちらの標的は崖の左側になる」


 「しかし味方の矢とクロスして当たって落ちてしまうこともあるのでは?」


 「実際の戦闘で敵の矢に当たらずに敵地まで矢を届けねばならん時もある。しっかり味方の矢筋を見極めゴブリンを仕留めよ」


 「やったぁぁぁ。あたったぁぁぁ」


 「うれしいのは解るが、気を緩めるな。下にラミル様の隊がいる。あまり手を煩わせるな」


 ゴブリン達が両脇から徐々にポトポト落ち始めた。中心当たりに居たゴブリン達は焦り、下る速度が速くなってきた。


 やがて地上に飛び降りる者が出てきたが、まだ飛び降りるには高さがありすぎたのか手負いとなった。


 そのゴブリン達を見ながらラミルが。


 「良いか。私が先ほど作った土盛の線よりこちら側に来た者だけを討伐せよ。味方の矢を背中に受けるぞ。絶対に上官から離れるな。お前ら二人は私と来い。かかれ」


 城壁側半分が戦闘地域となった。ラミルに付いていった二人は、どこで取ってきたのか人族の使う剣を構えた二体のゴブリンと交戦している。


 ラミルは連れてきた二人の新人に。


 「トル、足の運びが遅い。流れゴブリン相手に大股すぎるぞ。ラスは剣を大きく振りすぎだ、もう少し脇を締めて顎を引け。そうだ」


 周りでも剣の当たる音やゴブリンが仕留められた声に交じって、新人たちの勇の声、上官たちの指導が飛び交っている。


 ラミル達の頭上を飛んでいた矢が無くなった。


 城壁のライトから。


 「ラミル姉さん。左右の十匹は落としたよ。内三匹は生きてるけど矢筋が通らない。後で仕留めて。あと上の十匹が残り十メートルから十五メートル。十五メートルは壁伝いに下へ向かいながら左へ移動中。一番近い奴は城壁上まであと十メートルかな。真ん中の奴はリーダーとチーフだよ」


 「城壁に近い奴から三匹落として。もう少し訓練したいから、リーダーと残りは下へ来るように追い立てて。チーフはライトあなたに任せるわ」


 「了解。右側の弓兵は左から三匹を打ち落とせ。左側の弓兵はゴブリンに当てず下へ追い立てろ」


 左側の上官が


 「今度は当てるなよ。ゴブリンの頭や両脇を狙いながら下に追い立てろ。当てるより難しいぞ。放て」


 「上官。リーダーやチーフは他のゴブリンと違うのですか?」


 「ああ、特に流れゴブリンのチーフは我々でギリギリ矢が通るか通らないか。リーダーは通らんな。試してみるか。ライト様こやつにチーフを射らせていいですか?」


 「そうだな、後学のために必要かもな。そこの二人に私の準備ができるまで射らせてやれ」


 「了解。崖の中央で他のゴブリン達より二つ半頭が出ていて背中にでっかい剣を背負っている奴がリーダーだ、その右側で少し下にいるリーダーより少し小さい剣を

背負ってる奴がチーフだ。あいつを射れ」


 「わかりました」


 矢がゴブリンのチーフめがけて一直線に次々に飛んでいき命中しているが矢がポロポロと落ちていく。


 ライトはラミルの指示したゴブルリンが落ちたのを見て。

 

 「左の三匹は落ちたな。練習に新人全員でチーフを射ってみろ。ただ地上に降りられると厄介だから途中で私が仕留める」


 両脇にいる上官たちに声を掛けた。


 一斉にチーフめがけて矢が放たれたが一本も通らない。


 その光景を見ていたラミルが城壁に向かって。


 「ライト。少しは実地練習になったか?」


 「ラミル姉さん。これは最高の練習だ。ゴブリンの数が少ないと思うくらいに」


 「こっちもそうだ。私なんか見ているだけだからな。上で暴れているドルホがうらやましい。まぁリーダーは私がもらうがな」


 崖の上から


 「なにぃぃぃ。リーダーとチーフが下にいるだと。こっちとら雑魚ばっかだぞ。今から下に行ってやる」


 「来るなぁぁぁ。来なくていいぞ。絶対に来るなぁぁ。あいつは私の獲物だ。絶対に渡さぁぁん。ミラ様ぁぁテト様ぁぁ、ドルホを止めてくださいぃぃ」


 崖の上から小さな手が左右に振られている。


 城壁の弓兵に上官が。


 「射るの止め。ライト様に注目」


 ライトが右横の新人弓兵の弓と矢を取り。


 左腕を水平にピンと伸ばし弓を前に出した。次に矢のノックを玄に掛けシャフトをゆっくりと弓を握る左手の人差し指にのせた。そしてチーフはロックオンされた。

そのまま右手が引き寄せられてくると矢自体が明るく光り始めた。一連の動作が止まり、ライトはゆっくりと目を閉じ。右手の指をスッと離した。

 

 放たれた矢は弧を描くことなく一直線光の尾を引きながらゴブリンチーフの後頭部をめがけ飛んでいきドンピシャした。一瞬体がだらんとしたが一瞬で体が消滅して

魔石だけが下に落ちた。


 城壁内はどよめきが起こった。


 「ライト。お見事です」


 「ありがとうラミル姉さん」


 「今度はこっちの番ね。リーダーは私が殺る。他は倒し次第城壁の中へ退避」

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