第16話 対ゴブリンリーダー戦

 流れのゴブリンリーダーはゆっくりと地面に足をつけた。まるで見せ場を作るように。そして右手で背中の大剣をゆっくりと抜き、地面にくぼ地を作り潜んでいた三体のゴブリンを一振りで魔石に変えた。そしてゆっくりとラミルの方に振り返り歩き出した。


 すでにゴブリンリーダーのみになっている。背の高さはラミルより一メートルは高く二メートル半はある。横幅もラミルの三倍はあるだろう。半円のほぼ中央で十メートルほど間をあけて二人は対峙した。


 ゴブリンリーダーは右手の大剣の持ち手を返して大剣の先を自分の前に突き刺し、ラミルに対しゆっくりと右手を下から振り上げてきて水平の位置で止めた。そして右手を返し手のひらを向けてまるで どうぞ と言わんばかりのしぐさをした。


城壁内の兵達は、この光景を固唾を呑んでみている。一人の兵が口を開いた。


 「ライト隊長。あのゴブリンリーダーは何をしているんです?」


 「ああ、おそらくラミル姉さんの剣を見て術式が付与されていないのが見えたのね。だから待ってやるから全力で来いと言っているみたいね」


 小声で答えた。


 ラミルにもその行動の意図が解ったようで、ゴブリンリーダーに聞こえるように。


 「そう。ありがとう。お言葉に甘えて」


 と言いながら右手で剣を抜き前で垂直に構え、左手の手のひらを剣先のフラーに軽く添えて瞼を閉じてゆっくりと呪文を唱えガード部分に下げてきた。


 「フェアリーソウルに願う。スカイ、アース、フォレスタ、レイク、クラウド、ウインドウの力をここに顕現し、この剣イルラミルにフリージングとライティングを付与したまえ」


 左手が通った後から呪文の文字が赤く浮かび上がり消えていった。そして最後は左手をサクッとおろしガードでとめた。ソード部分はパチパチと電気を帯び始めて、やがてソード全体が弾ける放電に包まれた。


 ラミルが呪文を唱えている間ゴブリンリーダーは腕組みをして仁王立ちして待っていた。


 ラミルが呪文を終え剣が光るのを待って。ラミルの瞼が開くのを確認して、大剣を右手でつかみ軽く持ち上げ、剣先で土の上を引きずるように右側へ持ってきた。


 その姿を見たラミルは剣を素早く右下へ振り下ろした。ブゥゥゥンと低く後を引く音が響いた。


 ラミルは直立して左足を少し前へだして、右手は真横で剣と一本となり四十五度下へ突き出している。間合いを見ながらゆっくりと一歩二歩と前に歩き始め三歩目で一気にゴブリンリーダの前に突き進んだ。初手は上部から剣を振り下ろしたが軽くいなされてラミルが後方へ押し返された。軽く空中でバク転して着地した。


 「あら?どおしてここを狙わなかったかしら」


 左の脇腹を見せてそう言った。軽く上段に構えて突進してわき腹を見せて打たせようとしたが、剣を弾いただけだった。もしゴブリンリーダーが脇を狙ってきたら、地面を蹴って反転し後方から首を狙うはずだったが読まれていたようだ。


 もう一度同じ手で向かい 今度はゴブリンリーダーの左手に着地した。今度は左手から同じ方法で向かいいなされて右手側に着地した。


 ゴブリンリーダーの位置も、向いている方向も全く変わっていない。それから何度となく角度や方向を変えているが僅かにゴブリンリーダーに電撃が入るだけで決め手とはなっていない。


 何度か繰り返したころ。崖の上のドルホから。


 「おぉぉぉい。ラミル楽しいか?こっちにスローターが現れたぞ。どうする?お前が殺らねぇんだったら俺がやっとくぞ」


 ラミルはゴブリンリーダーの右側に着地して、前屈みになりながら左ひざを曲げて右足をいっぱいまで引き下げ、右手の剣は真横で水平にして止めた。左の拳を上にあげ人差し指を立てた瞬間、一気に飛び出し剣を前に突き出した。ゴブリンリーダーの首あたりの高さだがゴブリンリーダーの右腕が大剣を振り上げ脇を締めて振り下ろした。


 それを待っていたかのようにラミルは空中で前転してタイミングをずらしてまた剣を前に突き出した。ゴブリンリーダーは軽くのけ反りながらライトが目の前を通り過ぎて行くことを確認し、ラミルをの腹部を狙って左腕を振り上げた。その瞬間ラミルの膝当でガードしている左ひざがゴブリンリーダーの右ほほにクリティカルヒット。首筋から  と音がでて左を向いた。

目は白目になった。ゴブリンリーダーの左腕が腹部を殴りつける前にだらんと下がった。


 ラミルはそのまま走り抜け、城壁を一気に駆け上がり空中で待機していた浮遊兵の指で組み手をしていた手のひらにラミルが足をのせた。その勢いのまま浮遊兵がもう一段上にいる浮遊兵へと放り投げた。


 ラミルは腰まである美しい銀髪をたなびかせながら、まるで地上から投げ上げられた白く細長いスピアのごとく華麗に一直線に天空に向かって駆け上がって行った。


 ラミルは途中で黒い塊とすれ違った。


 崖上部から飛び降り、自然落下中のドルホだった。黒い鎧と速度があったので黒い塊に見えた。おかっぱの茶色の濃い銀髪が ぶわぁぁぁ と逆立ち、下を見ながら

がに股で大剣を右手に持って落ちて行った。


 城壁内の兵士は皆両手で顔を覆いつつも目の部分は開けて口々に。


 「ラミル様危ないです」


 「ラミル様ぁぁぁ落ちるぅぅぅぅ」


 「ラミル様、おやめください」


 「ラミル様のおパンツが見えてしまいますぅぅぅぅ」


 まるでそこにはラミルしかいないように叫んだ。


 「おい。最後のはなんだ。絶対見えないから安心しろ。お姉さまのスカートの中はこれと一緒だ」


 ライトがスカートの裾をグイっと上げた。妖精族の兵の兵の視線がライトのスカートの裾に釘付けになった。


 「ライト様おやめください。見えてしまいます」


 「見せているんだこれを。テト様作の半ズボンだ。どうだ問題無かろう」


 みんなが一斉にがっくりとうなだれた。


 「なぁぁぁぁんだ」


 弓兵はみな遠見もちだった。


 「何だとはなんだ」


 城壁の内側から砂煙が舞い上がった。ライトが城壁内に入ってきた砂埃払いながら。


 「おお、これはドルホが落ちてきて足裏の風の術を使ったな」


 ドルホがゴブリンリーダーの前でがに股で立っていた。


 砂埃が無くなり、ゴブリンリーダーは大剣を地面に刺して左を向いた顔を両手で正面に直した。そして目の前に突然現れたドルホを見て頭から下へ、右から左へと視線をお送った。そのままドルホの左右から後方を伺った。そして城壁内をその場で体も使って一周した。ドルホと対峙したまま両手をおそらくラミルの幅位に広げて首を傾げた。そして右手で背の高さをラミルの高さ位で止めて首を傾げた。その後右腕で両目をこすってドルホを見直した。


 「おい、てめぇラミルをお持ち帰りする予定じゃねぇだろうな?ラミルはぜっていやらねぇからな。その代わり目の前に居る、この見目麗しい乙女だったらいいぞ」


 ゴブリンリーダーははて?と考えながら辺りを見回してドルホに視線を戻した。


 そして大剣を両手で持ってドルホの方へ剣先を向けて構えた。


 城壁内から笑いをこらえる声がかすかにドルホに聞こえた。


 「お前ら戻ったら城壁百周だ」


 城壁内が静かになった。


 「おいてめぇ、ふざけやがって。乙女の心を傷つけて、ただで済むと思うなよ覚悟しやがれ」


 ドルホは大剣を右手でゴブリンリーダーに向けた。


 そしてラミルと同じ戦法でゴブリンリーダーに攻撃を仕掛けた。体格はチーフ位のドルホであったが足裏の風魔法でラミルに後れを取らない速度でしかもラミルより

体格が大きい分その一撃は非常に重く大剣にのしかかる。


 さずがのゴブリンリーダーもラミルの時のようには、いなすことができず、体を支える両足が地面をえぐりながら後退していく。すこしづつだがドルホの攻撃の跡がゴブリンリーダーの体に浅く刻まれていった。


 「俺の剣を受けた個所は回復できないように術式が付与されている。ほらほらどうだ。ラミルより奇麗で可憐な俺の方が昼も夜も色々と楽しめるぜ」


 その時ゴブリンリーダーは両手で持っていた大剣を右手で持ちドルホの左脇腹めがけて横振りにしてきた。一瞬だがゴブリンリーダーの行動速度が上昇した。


 「お見通しよ」


 ドルホが左に大剣の先を持って行き防いだ。その時ゴブリンリーダーの左フックがドルホの右ほほにヒット。


 ドルホは顔が左方向へ先に向かって左一回転して直地した。まともに食らうわけでなく体を使って受け流した感じだ。


 ゴブリンリーダーは勝ち誇ったように剣を地面にさして天を仰ぎ喜んでいるようだ。


 崖の上からラミルが。 


「ドルホォォォォォ。一発食らったのぉぉぉ?こっちは終わったわよょょょ」


 「お前のやり返しを俺がもらってやったのさ」


 その瞬間、その場にドルホの姿は無くゴブリンリーダーの後ろでゴブリンリーダーに背を向けて立っていた。


 ゴブリンリーダーが大剣に右手を掛けた状態で、左肩から右脇腹にかけてゆっくりと下方へズレた瞬間、ゴブリンリーダーの体が地面に消えていき、そこには魔石と装備品が残った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る