僕にも守るモノができたので戻ることはできません。【クラウンのお荷物だと言われ除隊したら戻れと言われたので断りました】

イナロ

ギルドを辞めました!

 冷静になってみると軽率だったかな……。


~~~ 1時間前 ~~~


「お前、もうここを出て行け! このお荷物が!」

「待ってくださいよ! 僕は言われたことを……」

「知るか! お前は言われた事しかできないのか!!」

「以前に言われたこと以外をしたら言われた事以外はするなって言ったじゃないですか!」

「過去の話など掘り返すな! 要領よく出来ないのかお前は!」

「要領って言いますけど、指示に一貫性がないんですよ! 指示するんならちゃんと指示してください!」

「俺に指図するな! この荷物持ちの癖に!」

「グハァ!」


 いつもこうだ。

 口で敵わないとすぐに暴力でねじ伏せる。


「お前はクビだ、クビ! さっさと荷物を持って出て行け!」

「ギルド規定でクラウン内部の解雇権を持っているのはクラウンのリーダーであるリリアナです。副リーダー補佐のアナタにはないはずだ!」

「口答えするな! リーダーを慣れなしく名前で呼びやがって! リーダーもお前には去って欲しいと思ってるぜ? 何の役にも立たないお荷物が!」

「グハァ!」


 周囲を見渡す。

 クラウンのメンバーが俺たちの口論を見ているが迷惑そうな顔をしたり、笑ってる奴もいる。


 昔はこんなギルドではなかったはずだ。

 どうして変わってしまったのだろう?


 ……もう潮時なのかもしれないな。


「分かったよ。出ていく」

「さっさと行け! この鈍間が!」


 副リーダー補佐のバルガンが清々しい笑みを浮かべて自室に帰って行った。


 バルガンに僕をクビにする権利はない。

 この場合は僕の自主脱退になる。

 リーダーのリリアナに脱退の手紙を書かなくてはいけない。


 今彼女はダンジョンに遠征しているから渡すことができない。

 バンガルに渡しても捨てられそうだしギルドを通して脱退するか。


 僕は少ない荷物をまとめてクラウンホームを出た。


 長い間生活の拠点だった場所だ。

 初期メンバーだった僕とリリアナは拠点を増築する度に酒を飲んで楽しんだ。

 他のメンバーも嬉しそうな顔をしていたっけ。


 ……もう行こう。

 ここにはもう来ないだろう。


~~~~ 現在 ~~~~



 ギルドで脱退の手紙を書いて直接宛てで送った。

 手紙がギルドで了承された時点で俺はフリーとなった。


 ついでに新しくクラウンを立ち上げようと思った。

 小さくても良いから笑顔がいっぱいのクラウンにしたい。


 初心者大歓迎!!

 君も冒険者になってロマンを求めよう!

 いろいろ教えます。

 戦闘員・非戦闘員共に募集。

 現在1名。

 リーダー詳細。

 名前・ティンカーガーデン

 レベル50 ランク1

 戦闘補助他雑用

 他クラウンで10年の下積み経験あり。


 これをギルドの募集欄に載せてもらった。

 ギルドでお世話になってる小人族のリリは微妙そうな顔をしていた。


 僕がクラウンに入る時はこんな感じの張り紙だらけだったけど、今は違うらしい。

 用紙を出した後で他のクラウン募集を見たがとても質素なモノだった。


 戦闘員募集だけとかレベル指定とかそんなんで人が集まるのかね?

 

 まぁそのうち人がくるとは思うけど、今の僕には家がない。

 家でも探しに行こう。


 僕は特に散財する趣味などはないのでお金は持っている。

 まぁあまり給料は変わらないかったけど。


 そうと決まれば……。


「あの……ティンカーガーデンさんですか?」

「あ、はい。そうですよ」

「あの! クラウンに入りたいと思ってまして!」


 なんと!?


「えっと……お名前は?」

「あ、マリーと言います」

「マリーさんですね。自己紹介は不要だと思いますが、僕の名前はティンカーガーデンです。ティンカーと呼んでください」

「えっと覚えてませんか?」

「??」


 ん?

 以前に会ったことがあっただろうか?


「以前。と言っても5年前くらいなんですけど、ティンカーさんに助けてもらいました!」


 5年前?

 昔過ぎて覚えてない。


「すいません。覚えてませんね」

「そうですか……」


 しょぼんと落ち込む彼女。

 感情がはっきりしている子なんだな。


「えっと。僕の立ち上げたクラウンに入るってことで良いんですよね?」

「あ、はい! よろしくお願いします」


 外のベンチで面接と言うのは彼女にも失礼だと思い、近くの喫茶店に入った。


「ここって高くないですか?」

「お金は僕が持ちまので心配しないでください」

「はい!」


 それからいろいろと話を聞いた。

 僕の今の状況も説明をして納得してもらった。


 マリーはパーティーを組んでいて彼女のほかに3人の仲間がいるそうだ。

 彼女がリーダーをしているらしい。


 彼女たちは成長に限界を感じているらしく、いろいろと模索しているが現状。

 メンバー内の話し合いでどこかのクラウンに入ろうと決めた矢先に僕の張り紙を見つけて受付の小人に話を聞いたらしい。

 あとでリリにお礼を言いに行かないとね。


「これからよろしくね。マリー」

「はい! ティンカーさん」


 僕たちは握手を交わし解散。

 マリーは仲間に話に行き、僕は拠点となるホーム探しだ。


 明日の正午にギルドで待ち合わせした。

 そこで彼女の仲間とも顔を合わせる手筈になった。


 お会計は少々高い程度だった。

 彼女たちはちゃんと稼げているのだろうか?


 まぁそこも教えられるだろう。


 仲間ができたことが活力となりさっきよりも足が軽い。


 心持ちいつもより速足で物件ギルドに入った。


「あれ~? 何でティン君がうちに?」


 多毛族のファンナがおっとり口調で話しかけてきた。

 ギルド内に人はいないようだ。


「新しくギルドを立ち上げてね。新しくホームが必要になったんだ」

「あら~。おめでとう」

「ありがとう。早速仲間も見つかってやる気に拍車がかかるね」

「頑張るのは良いけど、ティン君頑張り過ぎるからお姉さん心配だな~」

「昔の話は止めてくださいよ! 恥ずかしい」


 昔の僕は自分のキャパを知らな過ぎたんだ。

 近くに天才がいたから僕も追いつこうと必死になった。


 でも僕は凡人だった。

 それだけのことだ。


「ティン君。相談なんだけど」

「何ですか?」

「君のクラウンで私を雇わない?」

「ふむ……」


 物件ギルドの副リーダーのファンナが僕のクラウンで雇うか。


「詳細を聞きましょう」


 声のトーンを下げて商談モード。


「君のそういうところ嫌いじゃないわ」


 ファンナも口調がガラッと変わった。

 おっとり口調から圧のあるやや早口に変わる。


「雇うと言っても私はあなたのクラウンに出資をする」


 一流のクラウンは儲かる。

 仲間がたくさんいれば安定して稼げるし、深い階層まで潜ることも可能だ。


 まぁ強い仲間ありきだけどね。


「具体的にいくらですか?」

「1000万でどう?」


 悪くない。


「内容は?」

「1年で500万。5年でどう?」

「高いですね。300万の8年。良い物件付、増築3回は欲しい」

「物件は手数料として良いとして増築3回はふざけてるわね」

「増築と言っても安くしてもらえれれば」

「半額?」

「もちろん」

「1年で400万の8年。代わりにおススメの物件と増築1回」

「……」

「7年で」

「……」

「分かった。増築2回でどう?」

「良いでしょう!」

「はぁ~。あなたはやっぱりやりずらいわね」

「良い交渉ができて僕としては助かります」


 2人とも声のトーンが元に戻る。


 ファンナさんに物件の資料を見せてもらった。

 何度が口論になったが、落ち着くところで落ち着いた。


 多分僕が新しいクランを作ったお祝いでした提案なのだろう。

 まぁしっかり稼ぐところが彼女の恐ろしいところだ。


 資料を持って一人でホームに向かった。

 すぐに住むのは無理だが何が使えて使えないのかを把握しておきたいからだ。


 ホームは中央地から離れた場所にある。

 中央地はダンジョンがある場所を中心として栄えている場所であり、そこにホームを構えるのが冒険者の夢である。

 まぁ僕はそんなのに興味はない。


 利便性で中央地が良いな~とは思うがそれ以外は管理費が高いのであまり好きではない。

 僕の要望に叶うのはやはり中央地はずれになってしまった。


「やっぱり庭がないとね~」


 ホームに着いた。

 3階建ての建物で部屋数は16。

 玄関は広く、吹き抜け。

 暖炉のある部屋もある。

 キッチンと風呂もあるし、なんとサウナもあるのだ!


 素晴らしい。


 地下室もある。

 今のところ用途はない。


 そして庭!


「あれ? 庭というよりも畑だな……」


 まぁいいか。

 薬草とか栽培しよう。

 野菜でも良いか。


 もらったカギを使ってホームに入る。


「……空気が動いてるな」


 生き物がいる。

 大きさは……子供サイズ。


 ゴブリンか?

 いや、違うか。


 特有の匂いがしない。


「誰かいるのは分かってる! 悪いようにはしない出てきなさい!」


 空気が更に動いた。

 いる階層は2階だな。


 人数は……5人。

 多分人間の子供だ。


「かくれんぼか? 見つかったらお仕置きだぞ~!」

「ま、待って! 今、いくから!」


 そうして出てきたのはみすぼらしい服を着た子供だった。


「チルドレンの子供か」


 この場合、この子たちは犯罪を犯した犯罪者となり傭兵を呼べばこの子たちは捕まる。

 捕まった場合はまぁお察しだな。


「裏の庭を耕したのもお前らか」

「う、うん」

「食い物を育てるために」

「お腹減った」

「ごめんなさい」

「……僕たち捕まるの?」


 どうしようかね?

 子供を見捨てても痛む心などない。


 だがさっき悪いようにはしないと約束をした。

 約束は守らなければならない。


 僕はそう思う。


 では悪いようにしない。

 それはこのまま見逃すことを指すのか?


 いや、それはこの子たちを現状から変えないという意味で悪いままだ。

 悪いようにしないってことは良くしなければならない。


 僕は約束を守る男なのだ。


 決して子供を見捨てられない訳でない。

 勘違いしないように。


「君たち年は?」

「9才」

「10才」

「同じ」

「同じ」

「分かんない」


 分かんないって。


「君たちの戸籍はどこにある?」

「「「??」」」」


 だよね。


「君たちの両親は?」

「いない」

「分かんない」

「知らない」

「知らない」

「分かんない」


 まぁ何とかなるかな?


「君たちを教会に連れて行く」

「でも受け入れてくれないよ?」


 まぁ教会も無限に子供を受け入れてはいない。


「まぁ籍を移すだけだ。その後は僕が保護者となって君たちをここで働かせる」

「痛い事ない?」

「ないよ。労働環境は3食ご飯と昼寝とおやつ付き。寝床もちゃんとした場所を提供しよう」

「働く!」

「ご飯!」

「お腹減った!」

「おやつ!」

「おー!」


 一人勢いで声を出してるヤツがいるがまぁいいか。


 5人には少し待ってもらってホームをチェックした。

 防犯用の器具が壊れてた。


 子供たちは自分たちは壊してないと主張していた。

 まぁ状態を見れば壊したか壊れたかは分かる。


 これは壊れていた。

 だけど犯人は子供たちではない。


 おそらく冒険者の仕業だな。

 これが子供たちなら天才を通り越して化け物だ。


 これはファンナに報告しないとダメだな。


 いろいろチェックしたが、やはり家の魔石が全部盗まれていた。

 電気も火もつかえない。


 この手際の良さは常習犯だろうな。

 こんなホームに入ってもろくな稼ぎにならんだろうに。


 しょうがない。

 教会は後だな。



 

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僕にも守るモノができたので戻ることはできません。【クラウンのお荷物だと言われ除隊したら戻れと言われたので断りました】 イナロ @170

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