148_筋骨隆々の剣闘士は空想の産物、本当の姿はお腹がブヨブヨだった【肉も食べていない】 #肉体 #食事

「プロイセン王国の軍人であり軍学者であったカール・フォン・クラウゼヴィッツは『戦争は簡単であり、これに必要な知識は極めて低級なように見えるが、実行してみると、その反対である』という言葉を残しています。戦いというのは決して簡単なことではありません」


「やっほー、人生よくなってる読者様。使える知識をお届けする世界一の美女サクラです! 今回は『筋骨隆々の剣闘士は空想の産物、本当の姿はお腹がブヨブヨだった』のお話をしますよ」


「では、よろしくお願いします」


「読者様は剣闘士という存在をご存じでしょうか?」


「ファンタジー作品を読んでいる読者様なら聞き馴染みがあると思いますが、知らない読者様のために軽く説明します」


「剣闘士とは、古代ローマの時代に見世物として、闘技会で戦った戦士のことです。要は戦いを観客に見せる仕事です」


「もしかしたら剣闘士と聞いて、剣士を想像するかもしれませんが、剣闘士の中には槍で戦う人や、全身鎧をまとって戦っていた人もいたそうです」


「剣を二本持つ二刀流スタイルや、投げ縄を使う人、弓矢の剣闘士も存在したようです」


「さらには、女性の剣闘士も少なからず存在していたようです」


「かなりのバリエーションがあったのは間違いないみたいですね」


「そんな剣闘士に、読者様はどんなイメージを持っていますか?」


「奴隷が無理矢理戦わされているイメージですか? それとも戦いに飢えている戦士の行き着く先ですか? もしくは、筋骨隆々の戦士を思い浮かべるかもしれませんね」


「今回は剣闘士が実は筋骨隆々の戦士ではなかった件について、お話ししたいと思います」


「戦士だから鍛えているのだろう、と思っている読者様がいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはなかったのです!」


「実は剣闘士は、ブヨブヨのお腹をしていることが判明したのです!」


「意外だと思いませんか? 剣闘士には筋肉ではなく、贅肉がついていたのです」


「今回の研究はウィーン医科大学やベルン大学などが行ってくれました」


「トルコのエフェソスには剣闘士の埋葬地があります。研究者は墓を掘り起こして、骨を集めて解析しました」


「埋葬地には22人の剣闘士を含む、計53人の骨が見つかりました。剣闘士以外の骨は配偶者などだそうです」


「ちなみに、どうして剣闘士の埋葬地か判明したのかと言いますと、墓石に剣闘士のイラストが複数描かれていたからです。結構シンプルな理由です」


「もちろん、他にも文献を漁ったり、地形的な要因、文化などの総合的な判断をして、最終的な結論を申しています。あくまで、剣闘士のイラストがメインだった、という話です」


「そんなわけで、研究者は剣闘士の骨を集めて、サンプリングしました。完全な形で残っているものはなかったそうですが、調べるには十分な量の骨が発見されたとのことです」


「分析の結果は先に述べた通り、筋骨隆々の戦士ではなかった! ということです」


「読者様はこう思ったはずです『実際の姿はどうなんだ?』と」


「研究者は骨のサンプルからコラーゲンを抽出したり、カルシウムや亜鉛などの微量元素を調べたり、土壌の成分を調査しました。すると、剣闘士が何を食べていたのかが、判明しました!」


「食べているものが判明したら、どんな肉体をしていたか想像するのは難しくありません」


「それで、一体何を食べていたかと言うと…………大麦です!」


「正確には大麦や小麦、豆科の植物です。豆科の植物とは、具体的にキビやトウモロコシです」


「これらの食材は炭水化物が多いです。筋肉を作るのには向いていません。筋骨隆々の剣闘士とはほど遠いです」


「そもそもですね、グラディエーターの語源はhordeariiと言いまして、意味は大麦を食べる人、です。つまり、今回の研究結果と一致しており、裏付けております」


「筋骨隆々になりたければ、筋肉が必要です。筋肉には動物性タンパク質が必要ですが、剣闘士の骨には肉を積極的に食べていた証拠は確認されませんでした」


「また、エフェソスはエーゲ海から近いこともあり、海産物の消費をしている可能性が高いと予想していました。ですが、海産物をよく食べていた証拠もありませんでした」


「つまり、剣闘士のお腹はシックスパックのように割れていた可能性は限りなく低く、代わりに脂肪に覆われていた可能性がとても高いのです」


「へえー、って感じましたか?」


「え? 『奴隷だから、食生活も貧相だった』ですか。確かに、そういった一面もあると思います」


「古代ローマでは肉や魚、パンなどは高級品でした。庶民が食べるのは難しく、貴族向けの食事でした」


「ですが、剣闘士が大麦を食べていたのは理由は貧しかったから、だけではありませ」


「剣で戦う剣闘士は生傷が絶えません。斬ったり刺されたりすると出血してしまいます。そこで血管を少しでも守るために、脂肪の鎧をまとったと考えられます」


「剣闘士の涙ぐましい努力を感じます。実用的な理由がちゃんとあるのです」


「筋骨隆々の剣闘士を想像していた読者様の夢を壊してしまいましたかね?」


「でも、現実ってこんなものですよね」


「え? 『それじゃあ何で剣闘士が筋骨隆々のイメージなの?』ですか。その答えは簡単です」


「剣闘士の姿は壁画やイラストで残っています。これらの剣闘士は基本的に筋骨隆々のマッチョマンとして描かれています。そのため、剣闘士=筋骨隆々、というイメージがついたのです」


「なんで実際とは違う姿を残したのか、という疑問を持った読者様はいませんよね?」


「現代人がSNSに画像を投稿する際に、画像を加工しますよね。この写真を盛るという行為は遥か昔から行われていただけです」


「権力者の自画像が本物より美しく描かれるように、剣闘士の姿も本来より格好よく描かれたのです」


「そのため、後世の人は剣闘士はマッチョなんだ、と誤解したのです」


「残念なことに、人という生き物は見栄を張ります。現実がそのまま記録に残るということは少ないのです。過去のデータは脚色されて、なんぼです」


「え? 『剣闘士って大変な職業なんだな』ですか。いいえ、そうでもないかもしれません」


「剣闘士になるための学校では、貴族や上院議員、はてには時の皇帝でさえ参加していました」


「トレーニング施設には、風呂や医務室、水道が通っていたそうです。それに、剣闘士の傷が綺麗に処置されていたことも判明しています。手厚いサポートを受けていたようですよ」


「私たちがイメージする奴隷のように働かされていたとは限りません。剣闘士の試合には貴族が観戦に来ることもあったそうです。活躍して、貴族のパーティに招かれることもあったかもしれません。さらには、貴族に召し抱えられることもあったでしょう」


「もちろん、実際に見たわけではないので確信はありませんが……」


「ただ、調査結果はそんなに悪くない生活を送っていた、と物語っています」


「剣闘士が実はいいご身分だったかも、と夢想した所で今回のまとめです」


「剣闘士の墓を掘り起こして骨を調べたら、イメージと違う結果が明らかになったよ」


「剣闘士は大麦や小麦、豆を主食にしていたそうだ」


「意外にも肉はほとんど食べていなかったそうだ」


「なので、剣闘士のお腹はカッチカチではなく、ブヨブヨだった可能性が高そうだ」


「読者様も剣闘士の食生活を真似してみてはいかがですか? 加工食品ばっかりの食生活に比べたら、よっぽど健康的な食生活ですよ?」


「剣闘士は他にも、カルシウムサプリを摂っていました。植物や骨を炭にして作っていたそうですよ」


「もし興味があるなら、調べてみてはいかがでしょうか?」


「ということで、今回は『筋骨隆々の剣闘士は空想の産物、本当の姿はお腹がブヨブヨだった』のお話でした。読者様の人生の潤いになれば嬉しいです」


「最後まで、ありがとうございます。高評価や応援コメント、読者様が知りたい情報のリクエストも待ってまーす!」


「次回の『やっぱりゲームは勝つか負けるか分からないくらいが調度いいことが研究で証明された』で、お会いしましょう!」


「もしくは、読者様が気になるお話でもいいですよ。目指せ、知識の宝物殿。バイバイ」



参考文献

Stable Isotope and Trace Element Studies on Gladiators and Contemporary Romans from Ephesus (Turkey, 2nd and 3rd Ct. AD) - Implications for Differences in Diet

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