肉が硬いのは調理技術の問題?

「――はい、どうぞー」

カウンター席に座り、フィーノが料理を持ってきてくれるまで外の景色を眺めていた。

俺がフィーノに頼んだ料理は、この世界での「肉料理」だった。

俺はこの世界で「肉」というものを食べたことがない。

まあ、宗教によっては肉を食べないところもあるが、さすがにこの世界はそういうのじゃないだろう。

フィーノは「肉は硬くて食べられない」と言うが、それは調理技術の問題では?と俺は思った。

例えば、牛筋なんかは焼いたとしても硬くて食べられない。

牛筋は基本的に煮込み料理に使うものだ。

煮込む、というよりかは、炊くといった方が正しいだろうか。

まあつまり、調理方法を変えれば普通に食べられるのでは?と思う。

「あ、ありがとう」

そんなこんなで、フィーノが「肉料理」を持ってやってきた。

「肉料理」といっても何種類かあるわけではなく、そうだなぁ……これは、ステーキといった方がいいだろうか。

いや、見た目は普通においしそうだが。

これが硬いなんて思えない。

普通のステーキのように、表面には網目状の模様がついていて、鉄板か何かで焼いたんだなと伺える。

「ねぇ隼人、これ結構硬いんだけど……大丈夫?」

と、フィーノが心配そうに言ってくるが、

「まあ、大丈夫でしょ」

と、俺はのんきにそう言って返した。

幸いなことに、この世界にはステーキナイフとフォークはあるようで安心した。

とりあえずステーキにフォークを刺してみると、確かにフォークはすんなりと入って入ってくれない。つまり硬いということだ。

だが、そこまでガチガチに硬いというわけではなく、フォークを刺すのに少々苦戦していると、次の瞬間すっとフォークが入っていった。

最初が入ればあとは簡単。あとはそのまま押し込んでいくだけ。

うーん、やっぱり硬い。フォークでこの硬さはちょっとヤバいんじゃないかって思い始める。

まあまあ、その時はその時だ。

さて、フォークでステーキを刺した後はナイフで切るだけなのだが、こちらも全然刃が入っていかない。

ギコギコ……何回しただろうか、30回は絶対超えている。

「うーん……どうしたものか」

そこで俺は考えた。ナイフで切れないのなら、そのままかぶりついたらどうかと。

だが待ってほしい。ナイフで切れないのなら、歯でも絶対かみ切れるわけがない。

だけど、このままにしてはおけない。

せっかくフィーノが準備してくれたんだから。ちょっと嫌な顔されだけど。

「……仕方ない」

最悪歯が折れたとしても、その時はその時。

右手に持っているナイフを置き、フォークに突き刺さっているステーキに豪快にかぶりつく。

……ぐっ、やっぱりダメか。

簡単に説明するなら、焼きすぎた牛肉みたいな感じ。

牛肉の結構分厚い部位を焼きすぎると、ちょっと硬くて食べれない。そんな感じかな。

まあそれよりも硬いんだけど。

「くっ……ふんぬっ!」

その瞬間、ステーキの一部が口の中に落ちていった。

「はっ……!?かみ切れた……」

そう。たしかにそのステーキはかみ切れたのだ。

一言このステーキに言うなら、硬いけど食べられないほど硬くはない。




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