懐かしの人

「んん……あれ、ここは?」

目を開けると、そこはフィーノの家ではなく、周りが岩に囲まれている場所だった。

なんというか、視界が少しぼんやりとする。

それともうひとつ、体が少しフワフワする感じがする。

「ずるいよ、隼人だけ異世界に行くなんてさー」

この声は……明人だ。

「あ、明人……どうしてお前が?」

「違う。逆だよ逆」

「逆?」

何を言っているのだろうか。

いつもエロいことを考えているから、ついに頭がおかしくなったのかもしれない。

「僕からしたら、どうして隼人がここにいるの?」

「逆ってそういうことか……」

俺からしての明人ではなく、明人からしての俺らしい。

何を言ってるのかわからないと思うが、この世界に俺がいることがおかしいらしい。

「だって、隼人は車に轢かれたって、僕の親から聞いたよ」

ああ、やっぱりか。明人の世界では、俺はもう死んでいることになっているらしい。

「それで、異世界の方はどう?楽しいかな?」

「なんでお前がそれを知っているんだ?」

「死んでるのにここにいる。つまり、別の世界に飛ばされたとしか考えられないよ」

「……いや、できればお前もこっちの世界に来たら楽しいだろうなって思ったんだ」

「僕に死ねって言ってるもんだよ。それ」

「違う!……なにか機会があれば、こっちの世界の景色とか、見てほしいなって思ったんだ」

そう、俺が異世界に来たのは来たくて来たんじゃない。むしろ、明人の方がいいに決まってる。

「ありがたいけど、僕はまだ死ねないよ。というか、死んだら異世界に行くとか、結構確率は低いと思うんだよね」

明人が言う通り、異世界転生とか、普通に考えればありえない話だ。

だけど、今俺は異世界の方にいる。

だから、異世界転生っていうのは、ありえなくもない話じゃないか。

ただ、死後の世界に行く確率の方が高いかもしれないけど。

「たしかにな。でも、異世界転生は実際にあるんだ」

「そうみたいだね。実際に隼人は異世界にいるらしいし」

「まあ、いつかこっちの世界に来てみろよ。言っとくが、ティールっていう子は、服の色で感情なんかが現れるらしいんだ」

「へー、それはおもしろいね」

なんだ、その棒読みな感じは。

「服の色ね……はいはい、覚えておくよ。いつかそっちの世界に行ったときは。そっちの世界に行ったら、僕をよろしくね」

「ああ。もちろんだ」

と、そこまで言ったとき、辺りが暗闇に包まれ、気が付いたらフィーノの家の中だった。

「おっはよー!……ってあれ?どうしたの?」

「いや、懐かしい友達に会ったんだ」

明人は俺の友達、というか仲のいい後輩である。

「へぇー、それは夢の中で?」

「どうなんだろう。でも、夢っていう感じはしなかったけど」

「ふーん。仲のいい友達かぁ。いつか、その友達、私にも紹介してね?」

「まあ、いいけど」

というか、フィーノと明人を合わせたらどうなるんだろうか。

絶対明人は、興奮で手が付けられなくなるだろうなぁ。

「さーてと、朝ごはんできてるから降りてきてねー」

「う、うん……?」

フィーノは朝から機嫌がいいのか、小ぶりなお尻をふりふりさせながら部屋を出て行った。




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