誉め言葉は相手の機嫌をよくする

「――隼人」

どこからか、俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。

「ねぇ、隼人ってば」

声はするものの、辺りは暗闇に包まれているため、その声の主を見つけることができない。

「はぁ、もうちょっと神経使ったらどう?」

……神経?

言われた通り、一度目を閉じ音に集中する。

「ふふっ、そう。それでいいの」

そして目を開けると、そこには一人の少女が立っていた。

「ここがどこだかわかる?」

当然のことだが、俺はどうしてここにいるのかがわからない。

「あなた、さっきスマホに夢中で車に轢かれたんだよ。これほどのバカだとは思わなかった」

「ば、バカじゃないし!」

「不注意にもほどがあるっていうのに……はぁ。まあいいよ」

そうか。最後に見た光景は、急に止まった車。そして吹き飛ばされた俺。

「さてと。あなたは、現実世界に飽きたって言ってなかった?」

「それは、明人だよ。俺じゃない」

「あれっ、そうなの?でも、異世界の世界は楽しそうって――」

「ああ、たしかに言ったよ。だけど……ここって、死後の世界とかそんなんじゃないの?」

「違うよ。ここは、異界の世界。つまり、異世界に飛ばす前に来るところ……っていっても伝わりづらいか」

「だから、死後の世界でいう、三途の川?的なところか」

「そうそれ!なーんだ、それほどバカじゃないじゃん」

「だから、バカじゃないってば!」

この子は、どれだけ俺をバカにしてくるのだろう。

「それで、君は?」

「ああっ、申し遅れたよ。ボクは、ティール。ボクって言ってるけど、性別は女の子だよっ」

ボクっ娘か。なんというか、見た目もそうだが、どことなく男の子っぽい感じがする。

「俺の名前は……って、知ってるのか」

「うんっ。どうして知ってるか知りたい?」

「教えてくれるなら……」

「ははっ!おしえなーい!」

「なっ……お前、見た目はかわいいくせにそんなこと言うとか!」

「おっとっと……駄目だよ、ボクのことそんないじめちゃ。それより、ボクのことかわいいって言った?」

「……ああ、言ったよ」

「ははっ、ありがと。ボクは、ここの門番的な仕事をしてるんだけど、ここに来る人たちはボクのことかわいいとか言ってくれないんだー」

「いや、そんなこと関係ないんだが……」

「ボクのことかわいいって言ってくれたお礼に、3つ願い事をかなえてあげるっ!」

「願い事?それって、なんでも?」

「もちろんっ。だけど……ボクとエッチしたいなんて言わないでよ?これでも、まだ子供なんだから」

子供が門番していいのか普通。

「いや、ていうか君何歳?」

「そっちの世界で言ったら、大体10歳くらいだよ」

ガチの子供だった。

「子供とエッチするとか、そんな思想は俺には無い」

「そうなんだ!いやー、ロリコンじゃなくて良かったよ。もしも隼人がロリコンだったら、ボクどうなってたんだろうねー」

少し笑いながらそういうティール。

「おっと、おしゃべりはこのくらいにしておいて……異世界、行くよね?」

「そうだな……元の世界には戻れそうにないし」

「それじゃあ、異世界生活楽しんでねっ!」

辺り一面光に包まれたと思ったら、そこにはティールの姿はなく、別の世界が広がっているだけだった。






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