お題付き短編集②

※オウガ・ボーダーラインの執筆を始める前に、課題提出用と世界観説明を兼ねて書いた短編になります。オウガ本編と時間軸や設定が多少違うところがあります。


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【お題:サーカス/馬】

  ​嫌な予感しかしない

 

  

「なーなー、スグルー」

 いつものように勝手に家へ上りこんできた彼女が、なんとなしにテレビを見ながら僕を呼んだ。

 僕が目を向ければ、染めているのかわからない銀髪を揺らすことなく、彼女は視線をテレビに固定したまま喋りだす。

「馬刺しってさぁ、うまいのかなぁ?」

「へ? ばさし?」

 馬刺しって、馬の肉のことだよね?

 そんなことを聞かれても、残念ながら僕は食べたことがない。そのことをそのまま伝えると、彼女は「そっかぁ」と簡単な返事をした。

 そもそも、何故に彼女は突然、馬刺しの話なんかしだしたのだろう。どうにも嫌な予感しかしない。僕は彼女が見ているテレビへと視線を移した。

 そこに映っていたのは、とあるサーカス団の特集だった。近々公演される予定で、確か電車に乗れば行けない距離ではなかったと記憶している。大学の教授がしきりに勧めていたから覚えていた。

 そして、今まさに、そのサーカスで登場するのであろう馬が、元気に走っているところがテレビに映し出されているのだった。

「あの馬なんかさぁ、程よく肉が引き締まってて、おいしそ……」

「食べるなよ。というか行くなよ? 行かせないからな?!」

 僕の財布のため、サーカス団のため、そして何よりあの馬のためにコイツを行かせてはならない気がする、

 案の定、彼女は「えぇー」とブーイングをしてきた。本当に危ないところだったらしい。僕はホッと息を吐く。

 が。

「仕方ない、チャンネルを変えるか……あ、競馬やってる」

「馬から離れろよ!!」



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【お題:洋梨/バラ】

  ​知らない間に世界は回る

 

  

 皆さん、大変です。

 僕の財布が悲しいことになっています。

「はぁ……なんてこった……」

 まだ今月に入って2週間しかたっていないというのに、僕の財布に入っているお札は残り4枚となっていた。その中に1枚だけでも5千円が入っていれば良かったのだが、そうではない。もちろん諭吉さんもいらっしゃらない。

 はぁ、と再度溜め息を吐いた。こんなことになったのは言わずもがな、度々「おごれ」と僕にたかってくる彼女のせいである。

 染めているのかわからない銀髪をした彼女、名前を『サキ』という。彼女は現在無職であり、いわゆるニートである。なのでお金がない。だから僕を頼る。そんな悪循環が、彼女と再会してからの半年の間続いている。

 これからもこの状態が続くのだろうか。だとしたら、今度は僕の懐が危うい。さてどうしてくれよう……そんなことを思っていると。

「スグルー! いるかー!!」

「……噂すればなんとやら、だな」

 突然、玄関の扉が開かれた。両親が留守で本当に良かったと思う。

 それで、今度はなんだ、何をおごらせる気か! そんな覚悟と共に戦闘態勢で玄関へと向かう。

 しかし、そこにいたのは予想外の彼女の笑顔だった。

「見てくれスグル! 一度食べてみたくて洋梨買ってきたんだ! オレの初給料で!」

「へ……?」

 洋梨? 正しくは西洋梨という、バラ科ナシ属の、あの洋梨?

 確かに彼女の腕にはスーパーの袋がぶら下がっており、そこから取り出されたのは洋梨だった。なんでも、先月の終わりからバイトを始めたのだという。

 な、なんてことだ……僕の知らない間にニートがニートを辞めていたなんて……!!

「サキ……僕もバイト始めることにするよ」

「ん? おぉ、じゃぁ金が溜まったら、また海に行こうな」



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【お題:逆光/卵】

  ​「味はそれなりに美味だったよ」byスグル

 

  

 テレビの前。

 そこはもはや、染めているのかわからない銀髪な彼女の指定席となっていた。

「おー、スグルお帰り」

「うん……えーと、いらっしゃいサキ」

 が、しかし僕が留守の間に勝手に上がり込んでくつろいでいるのは、さすがにどうかと思う。

 ちなみに僕は現在アパートで一人暮らしの身分である。

 おかしいなぁ、合鍵なんて渡した覚えはないのだが……ピッキングでもしたのか? 彼女ならやりそうなことだけど……

「あぁ、そうだスグル。ほれ」

 と、彼女が何かを投げてくる。慌てて受け取ってみれば、それは傷一つない金属製。

「鍵?」

「そ、鍵。新しいのに取り替えといたから、それじゃないと開かないぞー」

「……はい?」

 つまり、彼女曰く。

 合鍵が欲しかったから、鍵ごと変えといたよ。

 とのことらしい。

「なんて手間のかかることを!!」

「スグル、突っ込みどころが違うぞ。『なんて素晴らしいことを!!』だろ?」

 素晴らしい突っ込みボケで返されてしまった。

 合鍵が欲しいからって鍵ごと変えなくても、というか今まで欲しいだなんて言っていなかったのに……等々、突っ込みどころが満載なのだが、とりあえず僕はむりやり思考を別方向に向けることにした。

 そう、部屋に入ってからずっと気になっていたのだ。

「ところでサキ、そこの窓際に置いてあるのはなんなのかな? 逆光で黒く見えるんだけど」

「違うぞスグル。これは本当に黒いんだ……玉子焼き、食べるか?」



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【お題:自由題】

 ​ 再来

 


 この世には、絶対に関わってはいけない存在がいる。

 と僕は思っている。

「げっ……」

「よぉ、久しぶり」

 そんな存在に再開してしまい、全力で逃げようとしたけれど、首根っこを捕まれて僕は危うく窒息死するところだった。

 恨めしげに紅い目をした彼を睨んだが、彼は相変わらずの偽物じみた笑みを浮かべているだけである。

「な……何しにきたの? 『次に会った時はお前を殺す時だ』とか言ってなかったっけ?」

「あぁ、そうだったな。でも、今日はただ様子を見に来ただけ。あと、アイツの状態も確認しようと思って」

 笑顔のまま、彼は言った。

 彼がいうアイツとは、サキのことである。染めているのかわからない銀髪をした彼女。彼と彼女は切っても切れない因果があるらしく、僕はそれに巻き込まれた被害者だったりする。

 ……いや、その因果を結ばせた原因が僕なのか。

 なんと答えるべきか、そう悩んでいると、彼はにこりと笑った。

「ふぅん? その様子じゃ、元気ではあるみたいだな……ま、それなら、別にいいや」

 彼は納得したように僕に背中を向けた。どうやら用事は本当にそれだけだったらしい。結局何をしに来たのかわからない。相変わらず、嵐のように奴だった……と、僕はホッと胸を撫で下ろす。

 が、気を緩めた瞬間を狙う奴がいた。

「スグルー!!」

「ぐぅっ?!」

 本日二回目の首絞めだった。再び窒息死しそうになり、恨めしげに彼女に振り向いた。

「っ、なにするんだよサキ……」

「兄貴がいるような気配がしたんだけど、気のせいだったか? せっかくすっ飛んできたのに」

「あー……今帰ったところだよ」

「なんだってぇ? 挨拶ぐらいしていけってんだ馬鹿兄!」

 ぎりぎりとナイフを握りしめる彼女。どこから出したんだ、そのナイフ。はぁ、と僕は溜息を吐いた。

「まぁいいや……帰ろうか、サキ」

「ぉ、ついに同居許可だしてくれるのか?」

「置いていくよ」

 その後、僕は本当に彼女を置いていこうとし、三度彼女によって窒息死しそうになったのだった。

  

 

  

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境界線シリーズ短編集 光闇 游 @kouyami_50

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