お題付き短編集①

※オウガ・ボーダーラインの執筆を始める前に、課題提出用と世界観説明を兼ねて書いた短編になります。オウガ本編と時間軸や設定が多少違うところがあります。


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【お題:青空/渚】

 ​ 海開きはまだまだ先

 

  

 今年の春は、全国的に冷え込んでいる。

 暖かくなったと思ったその翌日には気温が下がり、ともすれば2月さながらな気温となる。ニュースによると、北の方では桜に雪が積もるという変な現象が起きているという。

 あぁ、今年花見に行った人はさぞかし天気に困ったことだろう。あいにくと僕はこたつで温もって過ごしていたので、暖かくなってからと思っていた花見はついに行けず、気付けば寒空の中で桜は当に葉桜と化していた。

 そんな、4月もそろそろ終えようとしていた頃に。

「なぜに悲しくて、こんな寒い日に海に出かけているのだろうか、僕は……」

「そりゃお前、オレが誘ったからに決まってるじゃん」

 虚しい僕の独り言に、面白そうに返す声があった。

 空は晴天。陽射しは辛うじて暖かいが、その温かさも海風の前では無効力。だというのに、そいつはあろうことか半袖にパーカー姿で平然と風に吹かれている。しかも素足。波打ち際で、何が面白いのかばしゃばしゃと押し寄せてくる波を蹴っている。

 染めているのか地毛なのかよくわからない銀髪が、風に吹かれてなびいている。その後ろ姿は、まぁそれなりに格好いい、といえるだろう。

 が、しかし。

「なぜに悲しくて小一時間も寒い中で強風に吹かれながら波と格闘してる子を見つめないといけないんだろうか、僕は……」

「オレが波にさらわれた時はヨロシクな」

「うん、即座に119番か海上自衛隊にでも連絡してやるさ」

 せめてもの救いといえば、波と戯れているそいつが見た目は少年だがれっきとした女の子である、ということだろうか。

 僕はマフラーを締め直し、冬用の分厚いコートのポケットに手を突っ込んで、ポケットの中にある携帯電話を握り締め、ひたすら寒さと格闘するのであった。

  


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【お題:春/石畳】

  ​夢占い

 

  

「最近さぁ、よく変な夢見るんだよな、オレ」

 唐突に話を振られた。僕は突っ伏していた頭を持ち上げ、染めているのか地毛なのかわからない銀色の髪をした少女を見やる。

「夢?」

「あぁ、夢。どこまでも続く石畳の道を、永遠とお前に追いかけられる、そんな夢」

 なんだそれ、と僕は呆れる。

 きっと彼女から見えれば顔が怪訝そうに歪められていることだろう。彼女は「まぁ続きを聞けよ」と僕の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「でな、昔どこかで聞いたんだが、その夢には理由があるらしい」

「へぇ、どんな理由?」

 彼女の手を払わずに僕はそのままの体勢で聞く。

 うん、と彼女は一つ頷き、飽いているもう片方の手の一刺し指を立て、説明してくれた。

「なんでもな、誰かから追いかけられている夢は、その追いかけてる奴に謝りたいという心の表れらしいんだ」

「ふぅん……」

「だから、ごめん」

 ぺこりと彼女は頭を下げた。

 僕はそんな彼女に冷やかな視線を送った。

「なんだよ、ちゃんと謝ったじゃねーか」

「一応はね。ただ君、反省してないだろ」

「してるって。今度、海に行く時はカイロやるから」

「いや違う、それは反省していない。あんな氷点下に僕を海に駆り出し、浅瀬で足を滑らせて溺れかけた君を救ってやったというのに、その上で風邪を僕にうつしたという反省が全然されていない!」

 というか、泳ぐのが苦手なら波の中に入るな、そもそも寒いのに海に連れて行くな……等々、他にも言いたいことはあったけれど、言い出すとキリがなさそうなのでやめておいた。

 が、しかし。彼女はやはり反省する様子もなく、僕へのお見舞い品として持ってきたはずのリンゴをむしゃむしゃと食べ出すのであった。

「やっぱ海は駄目だな。次は山に行くか。富士山とか?」

「頼むから、もう少し暖かくなってからね……」


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【お題:スランプ/レモン】

 ​スランプの原因

 

  

「なースグルー」

 ころころと転がりながら、彼女は上目遣いで僕を見上げる。

 染めているのか地毛なのかわからない銀髪が、床の上でぐしゃぐしゃになっていた。が、僕はそれを横目に見ただけで、すぐに作業へ戻る。

 目の前には真っ白な画面。そこにキーボードでカタカタと文字を打ち込んでは、消していく。

「スグルー…すぐるー…すぐるんー…」

「……」

「すぐー…ぐるー…するー…?」

「……人の名前で遊ばないでくれる?」

 耐え切れずに顔を向ければ、彼女はにんまりと笑顔を見せた。してやったり、という様子である。

「うーん、スルメ食べたくなってきた」

「食べるなよ」

「大丈夫、今の気分はキリンレモンだから」

「外の自販機で買ってきなよ……」

 頼むから、作業の邪魔をしないでほしいなぁ。

 明日提出のレポートが先ほどからまったく進んでいない。さて、どうしたものか……と考えていると、ふいに彼女が僕の膝に顎を乗せてきた。

「なんだ、文章のスランプか?」

「うん、誰かさんのおかげでね」

 まったく、人の家に上がりこんでまで何をしているんだろうか、こいつは。

 そう思っていると、彼女は思いついたように声をあげた。

「スグル、120円くれ。キリンレモン買ってくる」

「自分の金で買ってきなよ……」



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【お題:友人or絵本】

 ​ 目撃情報

 

  

「なぁ鶯、この前四条で銀髪の奴と歩いてなかったか?」

「へ?」

 大学の食堂にて、ふいにそう聞かれた。塩ラーメンと格闘していた僕は顔を上げ、テーブルを囲っている面々を見渡す。

 どいつもこいつも、興味津々に僕を見ていた。

「えっと……いつの話?」

「先週の日曜日の午後3時40分! 四条大橋の近くの某M店から、お前とその銀髪の奴が出てくるのを見たんだ」

 なぜそんな細かい時間帯を、と思いながら僕は記憶を振り返る。

 先週の日曜日……あぁ、そういや彼女に「急にハンバーガーが食べたくなった」と言われて拉致誘拐のごとくに連れ出されたのだっけ。でもって当たり前のように奢らされた気がする。おかげで今月の僕のサイフが淋しいことになってしまったのだった。

「あいつ誰なんだよ? まさか恋人か?」

「まさか。サキとはそんな仲じゃないよ」

 ちなみに『サキ』とは彼女の名前である。

 しかし、よく彼女が女だとわかったものだ。彼女は自分でも「ひんにゅーはステータスだ!」と豪語しているぐらいに胸の発達が非常に宜しくないので、一見すると少年のように見えるのだが。

 そう思っていると。

「あぁ! やっぱりソイツ、女なんだな?!」

「なんだよ、俺らを置いていつの間に知り合ったんだ?!」

「恋人じゃないなら紹介しろよ、あの美人!!」

 へ、あの、えっと、美人って誰のこと? あぁ、サキのことか。確かにアイツ、顔だけはいいもんな……性格に難ありだけど。

 と、頭の中で疑問と回答をしているうちに彼らは勝手に話を進めていた。

「でさ、彼女の趣味と知ってるのか?」

「え、趣味? えーと……ナイフ集め?」

 僕の一言で、それまで騒いでいた友人たちが面白いほどに凍りついたのだった。

  

  

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