イトナアフター



 阿笠連。


 俺は、同年代の他の子供達よりは頭がいい。


 けれど、だからこそ他の者達と一緒にいる事を苦痛に感じていた。


 物事をよく考えないで、欲求のままに行動する者達は愚かに見えてならなかった。


 今よりももっと子供だった頃は、同じような学力であまり差がなかったけれど、成長してくると特にそう思う事が多くなった。


 自分なら簡単に出来る事に苦戦している様子は、見ていて不愉快だった。


 だから、俺は他の人間と一緒に行動する事はなくなった。


 そんな様子を見た両親は、そんな俺の事をほめ、もっと優秀になる事を期待してくるだけ。


 注意をする事はなかった。


 しかし唯一、離れた所に住む祖父だけはそんな俺の行動を悲しんでいた。


「同年代の友達とも一緒に遊びなさい」とか「たくさん遊ぶ事が子供の仕事だよ」とか言ってくる。


 そんな事をしても、俺にとっては苦痛なだけなのに。


 けれど、祖父の悲しそうな瞳を見ると、なぜだか心が痛くなるのだ。


 祖父の事は嫌いではない。


 おそらく両親より好きなのだろうと思う。


 祖父は、聡明で頭が良い。


 過去に、有名な大学を卒業して、とても難しい研究をしていたらしいからそのためだろう。


 だから、他の人に感じるような苦痛を感じなかった。


 それどころか、祖父の話す内容はどれも新鮮な物だったり、斬新な物だったり、飽きる事がなかった。


 俺は、他の誰と話す事よりも、そんな祖父と話しをする事の方が大事だった。


 しかし、祖父が倒れてから状況は変わる。


 祖父は若くない。


 だからあちこち体にガタが来ているのだろう。


 搬送先の病院のベッドから起き上がれない体になってしまった。


 その時から、強い孤独感がつきまとうようになった。


 年齢を考えれば、どうやっても祖父の方が早く死んでしまう。


 この広い世界で、自分と同じ物をみて、同じ目線で考えられる唯一の味方がいなくなってしまうと思うと、心細くなった。


 なら、どうすればいいのか。


 ずっと孤独に過ごす事など耐えられない。


 他の子供達より頭がいいと思っていた俺も、しょせん心は子供だったと言う事だろう。


 だから、俺はその日から他の子供達の面倒を見るようになった。


 頭が悪いなら、自分と同じにすればいいと思ったのだ。


 当人たちだって、分からないよりは分かった方がいいはず。


 人のためにもなる事だ。


 迷惑がられるなんて思いもしなかった。


 その日から俺は、すすんで他の人間に勉強をおしえていった。


 しかし、その親切は余計なお世話だったらしい。


 わざわざ自分の家にまねいてまで勉強会をひらいたというのに、自分がいない間に彼等がどんな陰口をたたいていたか。


 彼等が話していたのは、いかに勉強した風をよそおうか、どんなズルをすればいい成績をとれるかだった。


 だから、俺は諦めたのだ。


 俺はずっとこの世界を、一人で生きていくしいかないと。


 俺が見えている世界は、誰とも重ならないものだ。


 誰も俺と同じ場所に立つ事はできないし、立っている人間もいないのだから。


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