リンカアフター



 ずっと幼い頃は、それが普通だと思っていた。


 私の家はごく普通の一般家庭だと思っていたのだ。


 友達に、「臨ちゃんの家って珍しいね」と言われるその時までは。


 家の中に母はいる。


 けれど、私の家に父親はいなかった。


 離れた場所に祖母はいる、けれど祖父はいなかった。


 たまに家に来る男の人は親切だけれど、父親ではなかなった。


 それ等の事実は、普通ではないらしい。


 世間一般の目から見ると、珍しい部類に入るようだった。


 そんな事を知ったのは、友達に珍しいと言われた時。


 そして、それを思い知ったのは、私が友達を家に呼ぼうとしたときだった。


 母親は「やめて!」と言った。


 思わずといった風に、大きな声で怒鳴られた。


 けれど怒った後に、悲しい目をして「ごめんなさい」と謝ってきたのだ。


 その時の私は、よく意味が分からなかったけれど、後になって考えてみればそれも当然だと思った。


 世の中には善良な人ばかりではない、人を利用して楽をしようと考えている人が大勢いる。


 私は子供だったけれど、それくらいは分かっていた。


 リンカの家の父はそんな人間だったから、私の家にはいない。


 祖父もおそらく、そんな人間だったから、私が会える場所にはいない。


 母は、そんな家庭環境を私の同級生に知られたら、娘が虐めに遭ってしまうのではと心配したのだろう。


 だから、私は自分の家の事を他の者達には極力言わないようにしてきた。


 人に壁をつくってしまう事になるし、一定のラインから仲良くなることはできないけれど、大好きな母の為だから仕方がないと思っていた。


 だって、母にはたくさん迷惑をかけてきた。

 数年前までは病気で入院してたから、お金が必要だった。

 そのせいで、辛い日々を強いてしまっていた。


 だから、これ以上苦労をかけたくない。

 本当はたくさん友達が欲しかったけれど、我慢できることは我慢しなければと思った。

 けれど、だからといって私は不良になったりしない。


 なぜなら、世の中には悪い人ばかりではないのだから。


 私の家を助けてくれる、父親でもない男性がその証拠だ。


 その人はこちらとは何の関係もないのに、色々助けてくれる。


 母子家庭では何かと大変だろうと言って、食べ物や品物をわけてくれる。


 それに誕生日には、私の為にゲームを買ってくれる。


 だから、私は信じたいと思った。


 どんなに辛い状況でも希望はあると、諦めなければ道は開けるのだと。


 前を向き続ける事が大切な事だと、そう信じていた。


 でも、困った時はちょっと大変。


 周りに相談できる人がいないから。


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