第3話 許されない未来




「橘君大丈夫?」

「あれ? なんで、僕こんな所で」


 気が付いたら僕は通学路に倒れていた。

 通りかかったクラスメイトに心配されていた最中、目を覚ましたのだった


 一体自分はどうしたのたのだろうか。

 こんなところで気を失うなんて。

 ゲームのやりすぎで、眠気に抗えなかった、にしては睡魔に襲われた記憶はまったくない。


 符に落ちないながらも僕はその場を後にする。

 己の事を気にかける同級生たちの言葉を後ろに置き去りにして。


 少し前の僕なら問題児とはいえ善意からよせられるその言葉に、一つや二つの言葉を返してもいいところだったが。なぜだか今はそんな事をする気分にはなれなかった。


 背後にいるクラスメイト達の中、おせっかいな少女が声をかけてきた。


「ちょっと紅蓮、どこに行くのよ。返事くらいしなさいよ!」


 けれど、振り返る事もしない。


 自分の手は誰かと手を繋いでいい手ではない。

 そんな気がしたからだ。





 数多の願いが神を作るなら。

 数多の現実が神を殺す。


 願いに生きる紅蓮のような者達が、神を作り出すなら。

 現実に生きる連のような者達が、神を殺すのだろう。


 神として生み出されたそれは人には許されない力を持し、亡霊のようにあいまいにただよい生き続け、魔女の様に戯れな遊びで人を翻弄する。


 生まれ続け、滅ぼされ続ける彼等の存在。

 その連鎖を断つためには、願いを抱いて溺れず、現実に立ち向かう者が必要になってくるだろう。






 それぞれの日常に戻った子供たちを空から眺めながら、迷宮の製作者であるオリガヌは笑い声を上げていた。


「うふふ、これはおもしろくなりそうな予感。暇つぶしに始めたゲームは思わぬ収穫になりそう」


 オリガヌという名をもつその人物はその自らが浮かんだ空中に可愛らしいハートのクッションを出現させ、胸に抱きしめて頬ずりをする。


「すりすり、怒るかなぁ。あの事を知ったら怒るかなぁ。うふふ」


 考えるのは、攻略者である一人の少年の質問だ。

 死んだユニットは確かに死亡した。

 ただそのユニット達の「作り」は明確には紅蓮達と同じ人間ではない。


 だから破損したユニットという物体は死亡扱いになったが、紅蓮達が気にかけていた駒の彼らは死んでいないのだ。


「くすくす、あははははっ! ゲームって便利よねぇ」


 笑い声を隠すことなくもらすが、下にいる誰も上空の様子を気にかけようとはしない。

 まるで誰も、そんな声は聞えてはいないかのように。 


「あの子達にはまた別のゲームに参加してもらおっかなー。あー、ほんと楽しかったぁ。いい暇つぶしだったわ」


 オリガヌは目を閉じて、空の中で空想にふけり始める。


「檻の中から出られない鳥の気持ち。素敵ね、想像しただけでもドキドキしちゃう」


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