第31話 一蓮托生のチーム



 紅蓮達は一蓮托生の仲だ。

 とにかく、イトナ一人で脱出しても意味がないのだ。三人が共に、どうにかしてこの部屋から出なければならない。


「倒すのは良いから、まずそれ教えろよ」

「剣もまともに使えないのかい? まったく」


 だが、文句を言えばそんな答えだ。

 どうか誰か、呆れた声でそんな事を言われて堪忍袋の緒が切れなかった紅蓮を誉めて欲しい。

 イトナといるだけで、紅蓮は怒りの耐性値が凄い勢いでついていきそうだった。この忙しい時に天井につかない事を祈りたい。まったく本当に。


(やれやれ、みたいな仕草するな! まともに使えないのが普通で、お前がおかしいんだよ!)


 とにかく、それからはイトナが協力してくれるようになって少しだけ楽になった。


 コツを教えられて鎧武者を解体できるようになれば、今まで降り注いでいた攻撃の嵐も弱くなり余裕が出来てくる。


 しかし、喜んでいられるのもつかの間だった。


「ねぇ、紅蓮君。なんだか数が増えてない?」

「え? そんなはず……」


 時たま繰り出される敵の攻撃を防いで下がるリンカだが、その彼女が訝しそうな声を出して、紅蓮は聞いた内容を否定しかける。……が、すぐにその通りだった事に気が付いた。


 なぜなら視線の先で、敵である鎧武者の数が増えていたからだ。

 全体数を見てみるが、やはり数が減っていない。 


 白い部屋を見まわし、その原因が目に入る。

 部屋の天井で、毎度おなじみの様に全身真っ白で保護色になっていた道具のそのライトが、光を降らせて床を照らしていた。

 するとそこに、まるで神が使者を遣わすかのような演出で一体の鎧武者が現れたのだ。


 やられたら天国行きってわけなので、あながち間違ってはいないだろうが。趣味の悪い設定だ。


「追加要員かよ! 聞いてないぞ」


 ああ、本当に聞いてない。どういう事なのか。文句を言いたくなるのはこれで何度目だろう。理不尽がうんと多いと言われている大人の世界を垣間見たかのような気分だ。つまりまとめると、最悪な気分。


 感情を吐き捨てれば、衝撃を受けている湯オスのないイトナが言葉を返してくる。


「最初にこちらに示された説明文に増援はない、なんて無かっただろう。だからつまりそう言う事なんじゃないか」

 

 最後の試練を終えたと思ったそのすぐ後に、次の最後の試練を出された時の事を思い出した。


(そうだよな。そういう奴だよな。分かってたけど)


 むしろ紅蓮の想像通りに律儀に試練を行ってくれるなど、あり得るはずがなかったのだ。


 理不尽な脅威にさらされ、理不尽な都合で翻弄される。

 紅蓮達はまさにゲームに動かされ、機械的にプレイヤーの経験値の為に差し出される生贄(キャラクター)達のようだった。


「ああっ、くそっ!」


 嫌になりそうだ。

 何度も騙されて、コケにされて、想像を覆されて、希望を潰されそうになって。


「紅蓮君……」


 やめたい。

 頑張っても本当に、出られるかどうかも分からないのに。

 何で頑張っているのか、とそう思う。

 絶対にこれが最後になると言う保証はどこにもないのに。


「諦めちゃ駄目だよ……」


 それでも……。

 それでも、励ましてくれる人がいるから。


 頑張れと言ってくれる仲間が目の前にいて、そしてゲームの世界でも協力してくれた者達がいたから。


「グレン、ぼうっとしてる暇はないぞ」


 そいつらがいるから、紅蓮一人が投げ出すわけにはいかないのだ。


「言われなくても、分かってる!! 分かりすぎるくらいにな!!」


 抗い続けなければならない。


 一蓮托生なら、全ての心が折れるまで終わらない。

 まだこんな状況は、絶望などではない。

 希望はなくならない。






 紅蓮達は背を向けあい、互いの死角をカバーする様に鎧武者たちの攻撃をしのぎ続ける。


「このっ、しつこいぞお前ら!」

「いちいち分かり切った事を喋らないでくれ、静かにできないのか、君は」

「おまえも注意がしつこいな!」


 口ゲンカする紅蓮達の雰囲気に触発されたように敵が寄って来て、激しい攻防になる。それを前よりずっと苦労して撃破。ここの所はこの繰り返しだ。


 鎧武者は減らない。例によって例のごとく補充されてくるので倒しても、増え続けるだけだ。もしろ元の数よりだいぶ増えていっている。


 キツイ。キリがない。

 やはり最初決めた通りに、やはり逃走と戦闘回避を主に行動すべきだろう。 


 考えろ、考えるんだ。

 なにかきっと方法があるはず。


 状況は時間をかけるほど、こちらに不利。

 だが、利点は少ないがある。鎧武者達はこっちに集中して、ほぼすべてが集まっていると言う点。


 逆に考えれば、ここさえ突破すれば何とかなるはずなのだ。

密集しているおかげで、攻撃を気にしなければいけない場所は限られているし、三人で背を向け合っていれば対処できない相手じゃない。アイデアさえあれば何とかできる状況だ。


 こういう時、紅蓮はいつもどうしていたか。

 闘争、回避。それ以外でだ。


 一方向に火力を集中させてそこから脱出するか、外から味方キャラクターに攻撃して挟み撃ちにして殲滅するか……。


 どっちも今の紅蓮達では駄目だ。


 後は……。


 ――――頑張ろう、紅蓮


 その時ふいに、首元が熱くなるのを感じた。


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