第28話 リトライの前に
視界が白く染まって、まぶしい光がはれていく。
次に気が付いた時には、最後の試練が行われた部屋の前に戻っていた。
扉についているプレートの文字がそっくりそのままなので、別の部屋という事はおそらくないだろう。
もはや話が、普通の人間どうこうという所から遥か彼方へと逸脱していてしまった。
ありえない現象が目の前で起こってしまっている。
でも不思議と、今はどうでもよかった。
僕達はチャンスを手にできたのだから。
もう一度、やり直す事が出来るのだ。
再挑戦の権利を本当に得たと言う事実に、浮つきそうになる心を静める。
やるべき事があった。
イトナの方を見る。
「ふぅん……。グレンや俺のような褒美は無駄に消費するつもりだったのに、リトライはさせるのか……」
試練に挑む前に、信じられないような表情で周囲を見回しているイトナに聞かなくてはならない事があるのだ。
「お前、さっき言った事……」
クラスメイト達が死んでないない、とそう言った事の意味を知りたかった。
オリガヌは確かに「ユニットの死亡は確定している」と言ったはずなのに。
彼はこちらを見て、説明してくる。
「ああ、半分はカマかけだった」
「はぁ?」
聞いた言葉に、信じられないの典型みたいなリアクションを取ってしまった。
世間の一般人みたいな安っぽい反応を取ってしまったとか、そんな事を思ったがその話題は今はお呼びでない。適当にそこらにでも置いておく。
相手から出る言葉とは思えなかったのだから、そんな反応になってしまうのはある意味当然だと思う。
ちゃんとした理由があって生きていると言ったのかと思いきや、イトナの先程の発言は勘だったのだと言われたのだから。
顔をしかめていると、イトナが面倒くさそうな顔で弁解してきた。
「半分は、と言っただろう。早とちりするな。犯人が人ならば、人間を大量に殺害するのはリスクが大きいと推測していたんだ。偽装工作や、処分だって困る。ましてや、相手の真実の狙いは、殺害ではなく相手なりの主張を伝える事だったのだから、嘘をつくだけで達成できたも同然だろうと踏んだ」
人ならば……とは、相手の正体をまだ信じでいないのだろうか、イトナは。
たった今、おかしな事が目の前で起こったと言うのに。
しかし、そう思ったのなら素直にそう言えばいいのに。何故にわざと分かりにくい言葉で言ってくるのだろう。
(こいつ、誤解されやすそうな人間だよな。頭良さそうで、物分かりの良さそうな態度とってるくせに、相手に合わせられないんじゃ……)
心の中で愚痴をつぶやいていたら気が付いた。
それ、僕もか。
「まあ、本当の所は他にもある。……本当に死んだのならユニットの死亡が確定したなんて子供から考えて分かりにくい言い方はしないと思ったんだ。現実をつきつけてあざ笑いたいなら、もっと別の言い方をするだろうし、僕が指摘してもちゃんと死んだんだと訂正するはずなんだ」
そんな風にイトナが考えを喋り終えれば、リンカが安心したように息を吐いた。
攻略失敗の後からずっと心配していたのだろう。
イトナの言った推測を聞き終えれば、陰らせていた表情に笑みを取り戻している。
「そっかぁ、良かったね。紅蓮君。今度の試練をしっかりクリアしてみせれば、皆無事で帰れるんだね」
「ああ、そうだな」
屈託のない彼女の笑顔を見て、ようやく胸を撫で下ろした。
素直に今の状況を喜んでいいのだと、実感が追いつてくる。
けれどそんな様子を見て、水を差すのはイトナだ。
誤解されやすいだけでなく、空気も読めないらしい。
「安心している場合じゃないだろう、まだ試練は始まってすらいないのに」
そんな事は分かっている。だが、ずっと暗い事ばかり考えたままだったら気分が滅入ってしまうだろう。
不愛想な顔をして注意を飛ばしてくるイトナは、きっと普段はぼっちに違いない。
そんな発言を聞いたリンカが、少しだけ心配そうな顔になる。
「イトナ君はもう少し力を抜いたほうが良いと思うよ。早くここから出たいっていう気持ちは分かるけど、焦りは禁物だよ」
「うるさい、君達に何が分かるんだ。俺は、俺は……早くおじいさまの所に行かなければいけないのに」
とりなす様に語りかけるリンカだが、しかしイトナは聞く耳持たずと言った様子だ。迷宮の次の試練の扉……ではなく、おそらく更にその向こう、そこに存在するだろう出口よりも先へ、視線を向けて言葉を呟き続ける。
今までは無感情っぽく見えていたのに、今はなぜだか普通の子供の用に見えた。
「おじいさまは病気なんだ、俺が誘拐されたなんて知ったらきっと心配してしまう。そのせいで病気が悪化してしまったら困るんだ。だから、俺は早く帰らなきゃいけないのに」
「そっか、だから……」
リンカが漏らした言葉の続きは、僕にも分かった。
だからあの時の試練でも、クラスメイト達の事を考えずに、攻略を優先したのか。
早く帰って、家族を安心させたいが為に。
家族を大事にする気持ちなんて普通の家庭で育ってこなかった僕には分からない事だ。だけど、世間一般の子供が、身内の誰かが病気になれば、今目の前にいるイトナと同じような心境になるだろう事くらいは分かっていた。
「俺だって、好きで見捨てようとしたわけじゃない。でも仕方なかったじゃないか。家族が死んでしまったら、その代わりはいないんだから」
よく考えてみれば、イトナがあの試練の時にわざと失敗しなくても、その少し前のイトナ自信のターンの時に安全権利とやらは60%になっていたのだ。
けれど、その時にすぐ止めようと言わなかったのは、彼自信が迷っていたからなのかもしれない。
僕がオリガヌに言われて、やり直しを迷っている時も、放っておけばすぐに帰れたはずなのにわざわざ助け船を出したりしたのは、やはり彼も消えて行った者達の事を気にしていたからなのではないかと思う。
まったく、それならそうと言ってくれればよかったのに。僕も……、当然怒りはするだろうがここまで関係がこじれる事はなかったはずだ。
(こいつ、自分の考えとか気持ちを伝えるの下手だよな)
紅蓮もだが。
……ことある事に似てる事ばかり目に付いてしまってどういう心境に落ち着けばいいのか分からなくなる。
けれど、今後の事も考えてこれだけは言っておかなければならないとおもった。
「自分の気持ちくらい、はっきり主張しろよ。頭良さそうなフリしてるんなら、そっちの方が良い事ぐらい分かるだろ」
しかし、それが相手の勘に触ったようだ。
「その気持ちとやらがだだだ洩れな君にだけは言われなくないな」
「何だと……っ」
挑発されるように言われて、怒りが込み上げてくる。
理解できる奴だとは思うけど、こいつとは一生仲良くなんて出来そうにないかもしれない。
「あはは、二人共仲良しさんだね」
「「仲良くなんかない」」
リンカはどこを見てそんな事を言ってるんだろうか。
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