第17話 ずっと友達で
ひやひやしっぱなしの試練は無事にクリア。クラスメイト達は、今回も一人も欠ける事なく試練を終える事ができた。
出口はきっと近い。
僕の希望は当たっていたようで、ほどなくして『もうすぐ出口』『最後の試練を越えた者、魔の迷宮からの解放を約束する』、と書かれた最後の部屋の前に辿り着いた。
この先に迷宮の出口があるのだ。
長かったな、とそう思う。
ついこの間まで普通に(とは、少し違うかもしれないが)過ごしていたはずだったのに、いつの間にかこんな訳の分からない事に巻き込まれて、見ず知らずの他人と力を合わせている。
客観的に今の自分をとりまく状況を省りみてみれば、不思議な事だった。
他人との関わりあいなんて避けてきたというのに、こうして今まで一言も喋った事がない相手と共に、見知らぬ場所で立っているのだから。
言葉を交わし同じ目的の為に行動するのに、大した時間も要らない。……なんて、そう思うのは、今までだったら考えられない事だった。
リンカが特殊だと言う考え方もできる。
彼女はとてもやさしいし、同年代の者達と比べてみるときっと頭が良い。危機を冷静に受け止める冷静さもあるし、困難な状況を打開する知恵もある。
他の人間だったらこうも上手くは行かなかっただろう。
だが。
ちょっとぐらい苦労するかもしれないけど、僕が今よりほんの少しだけ他人に歩み寄る事ができたならば、今リンカとしていられるように話したり行動を共にしたりできるのではないか、と。
きっと普通の子供みたいに……。
「紅蓮君、何考えてるの?」
ふいにリンカがこちらに声をかけてきた。
考え事してるのが分かりやすく顔に出ていた様だ。
現在は僕がトラップ探知を行っているので、暇を持て余していたリンカが変化に気が付くのは至極当然の事だっただろう。
無防備だった横顔を彼女に眺められていたかと思うと、少し気恥ずかしくなる。
「すごく、楽しそうな顔をしてるよ」
「そんな顔してたのか?」
「うん」
自分で自分の顔なんて見えないから分からないが、リンカが自信たっぷりに肯定するから、どうやら本当にそうらしい。
「良い事あったんだね、良かったね」
まるで自分の事の様に喜んでくれるリンカの笑顔をそれ以上見つめていられなくなり、視線を逸らした。なぜだか、顔が熱くなってきた。
とにかく何か言わなければ、と思って言葉を紡いでいく。
「えっと、その……今まで、あ、ありがとう。リンカには助けられてばっかりだ、本当に凄く感謝してるんだ。お礼、言いたかった」
「そんなの何度も聞いてるよ」
誤魔化す様にやや早口で礼を口にするが、こっちの内容の方も恥ずかしかった事に気が付いた。結局何をしたかったんだか。テンパってて何も考えてなかった、というのが正しいかもしれない。
「助けられてばっかりだなんて、そんな事ないんだよ。もしそうだとしても、私のはちょっと目立っちゃっただけ。紅蓮君にも私はたくさん助けられたんだよ。そうやっていつも自信満々にいてくれてるから頑張れるし、私だって年上だから負けないぞ……ってそう思う事が出来る。アイテムを拾ってるのは紅蓮君の方が多いし、ゲーム機を操作するのは紅蓮君の方が速いから」
だから、とリンカはこちらの顔を覗き込んでくる。
その後に続いた言葉は、僕も望んでいた事で……。
「私は紅蓮君がいてくれてとっても嬉しい。これからも、迷宮から出た後も友達でいてくれると嬉しいな」
自分がどんな顔になったかなんて、知りたくないなと思った。
(だってそんなの絶対、嬉しいに決まってるし……)
リンカも同じ気持ちだった事に安心する。
友達継続の言葉に僕はなんて答えたか覚えてない。
何か言ったような気がするものの。口を動かすのだけで精いっぱいで、耳が働いていなかったようだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます