第15話 パズル



 訪れた白い部屋の中、リアル迷宮にはいつも通り何もない。

 試練があるのはゲーム迷宮の方だろう。あんなプレートがあったのだから何か変化でもあるのかと思ったが、相変わらずまったく代わり映えのない部屋だ。


 手にしているゲーム画面を見る。

 

(ごちゃごちゃしてるな)


 ゲーム迷宮……画面に映された白い部屋の中には、大量のマシュマロや鉄釘が散乱していた。そのところどころには、何故かパズルのピースが転がっている。おそらくその光景を目にした誰もが、その二つの関連性は何だと言いたくなる光景だろう。


 そして部屋の奥には時計のアイテムが置いてある。

 カチコチと秒針が音を立てているのが、スピーカ―から聞こえてきているのだから、時を刻んで動いているのだろう。

 それが単に現在時刻を告げているだけならばいいのだが……。


「時間制限でも、あるのか……」


 最後の局面……と考えれば、やはり今までの攻略にはなかった時間制限が付くのではないだろうか。難易度を上げる為には当然の措置だろう。

 元から気を緩めてなどいなかったが、警戒心を高めておく。


 ゲーム迷宮を見回すと、右の壁に蛇口の取っ手がついている事と、反対の左の壁には磁石のアイテムが落ちている事が分かった。


「今まではじっくり相談出来てたけど、それも難しくなりそうだね」


 そんな状況を見たリンカが、緊張をはらんだ声で喋る。すると彼女が口にした疑問に答えるかのように、メールが受信された。クラスメイトの物ではない。犯人からのだ。


 メールを開くと、そこにはこの部屋の攻略条件が書かれていた。


 次の試練はパズルを完成させるというものだ。

 部屋の中に隠されているパズルピースを見つけ出して、時間内に作り上げなくてはならないらしい。


 ひねくれた所のないひどくシンプルな内容だったが、散乱したマシュマロや釘を見れば、それが言葉通りに簡単ではない事ぐらいすぐに分かった。


 ともあれ、悩んで躊躇っている暇はない。


「ひょっとしてもう始まってるのか……?」


 部屋の奥にある時計が動いているのを見て、気が付く。

 試練は、僕達が部屋に入った時点で始まっていたのだ。


 こうしている間にもゲーム迷宮にある時計は時を刻んでいる、急いで行動しなければならない。


 クラスメイトに指示を出して部屋の奥へ移動させる。

 時計にカーソルを合わせてボタンを押すと残り時間が『10分』と表示された。


 やはり制限付きだ。


 アイテムを得れば画面の上部に時計のマークが出現して、残り時間がリアルタイムで表示されるようになった。もう、三十秒ほど経過してしまっている。


「急ごう!」

「うん」


 一応磁石のアイテムを回収してからクラスメイト達に指示を出して、肝心のピース収集作業へ取り掛かる。


 今までは急ぐ必要がなかったから、押し間違いを恐れてある程度の速度を保持していたのが、時間制限があるというのなら悠長に行動してはいられない。長年のゲーム生活の賜物と言っていいのか、鍛えられた技能でボタンに指を滑らせて、連打していく。


「わ、すごいね、紅蓮君。ちょっと見ただけじゃどのボタンを押してるか全然分からないよ」

「別に、普通だよ」


 歓声を上げるリンカの声が耳に入った。

 少しは見直してくれただろうか、と思わずそんな事が気になってしまう。

 今まで大した役割をこなせなかっただけに、誉められると気分が浮つきそうになる。

 気を取り直すように声をかけるのだが。


「それよりとりあえず、ピースを集めよう。……って何してるんだよ」

「ちょっと気になったところがあって。メール見てた。うん、やろっか」


 なぜかリンカは、パズルピースを探そうとはせずにいた。彼女はクラスメイト達を入口の辺りでうろうろさせている。


「リンカ、時間が限られてるんだし」

「そうだね」


 不思議に思いつつも時間がないと言って捜索を促し、部屋のあちこちへユニットを動かして、マシュマロやら釘やらの山からパズルピースをを回収する様に指示を出していく。


 しかしスムーズにパズルを集めるには、散乱している物が邪魔過ぎた。


「これじゃ、時間が足りない。もっと早く集めないと。ピースを合わせる時間がなくなる」


 刻一刻と過ぎ去っていく時間に焦る僕。

 けれどリンカは、ユニット総出でピースの捜索にあたらず、一体のユニットを別の所へ向かわせている。


「何してるんだ? もう時間がないのに」

「今までの部屋って、必ず正攻法以外で抜け出せる攻略法があったでしょ? だから、それを探しに」

「確かにそうだけど……、ここもそうだって言うのか?」

「うん」


 何を思い付いたかは分からないが、彼女には考えがあるらしい。

 僕達がそんなやり取りをしている内に、リンカが指示したクラスメイトが右側の壁まで行き、そこにある蛇口の元に辿り着いていた。


 ゲームグラフィックに変化はないが……。


 ゲーム迷宮では変化があったらしい。


 メールを呼んだリンカが内容を伝えてくる。


「水が出てるってシズクちゃんが言ってる、バケツとかあればいいんだけどな……」

「それなら僕が持ってる」


 何となくリンカがやろうとしている事が分かったので、ユニットに指示を出す。

 内部にいる者達に、バケツを壁際まで持っていかせた。


 蛇口の近くにバケツを置かせ、水を入れた後に再び回収。


 そのバケツをマシュマロの所で再び使えば、邪魔だったものが一気に消えてなくなった。


 マシュマロのグラフィックに重なる様になっていたらしいパズルのピースアイテムが、いくつか見えるようになる。


「後は釘だな。それならこいつの出番か」


 段々リンカの思考が分かってきた気がする。

 彼女なら、きっとこれをこう使うはずだ。


 僕は先程回収した磁石アイテムを持たせながらユニットを歩き周らせる。

 散乱していた釘が面白いくらいに集まって、ピース集めが一気に楽になった。


 回収したピースを部屋の中央に出せば、ユニットたちはやるべき事が分かっているらしくそれぞれを組み合わせてパズルを完成させるために動き出しているようだった。


 美加が全体をみながら、他の子供達に指示を出していっているのが分かった。

 どうすればいいのか分からなくなっている者達も、それでスムーズに動いていく。

 現場をみて、直接指揮する人間がいる事のありがたみが、身に染みた。


(パズルの作成については、こっちから指示を出さなくてもいいのか……。美加がいてくれて助かったな。指示だしできたとしても画面のグラフィックが荒くて見分けが突かなかったし)


 画面に映し出されたゲーム迷宮は非常に大雑把で、最後の描写が省略されている。そのため、小さなピースの違いなど分からない。それに、いくつもあるピースを動かす度にそれぞれいるクラスメイト達一人一人に、「押す」だの「進め」だのの指示を出していたら膨大な手間がかかってしまう。僕達だけでは、決められた時間内に、パズルを完成させられるとは思えなかった。


「もう残り時間が半分か」


 画面に表示された時計で時間を確認すると、ちょうど五分を切ったところだった。


「大丈夫、きっと間に合うよ」


 焦りそうになってボタンを押す手がすべりそうになる。そんな僕の様子に気づいてがリンカの励ましの言葉を掛けてくれる。

 急がば回れだ。

 何か見落としがないか、間違いがないかこういう時にそ、冷静にならなければいけない。


 残り時間三分。

 順調にパズルは出来上がってきている。

 ゲーム画面の中央には、完成間近のパズルがあった。

 部分部分しか見えていなかった柄が見えて来て、鎌をもった死神の様な形が見え始めている。


 この分なら何とかなるかもしれない。

 そう思っていたのだが、しかし残り時間が一分を切ったところで異変が起きた。


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