第14話 一人じゃない

 


 長い事立ち往生していたその部屋は、その後すぐに簡単に突破する事ができた。結局またリンカに助けられる形になって……だったが。僕もそろそろ役に立つところを見せなければならない。でないと男としてちょっと恰好悪くなる。


 それはともかく。

 攻略の方法は、意外とシンプルなものだった。


 ゲーム迷宮内。他の場所で手に入れた道具のトンカチをクラスメイトに持たせ、「進む」を指示し続ける。そうすればこちらの意をくんだ彼らが、攻略法に自然と気が付いてくれた。それで、もろい飴細工の壁を叩いたり突いたりして壁を壊していった。その後、無警戒に食べてる奴が数人いたので大丈夫かと心配になったが、何ともなかったので本当に良かった。考えてみればずっと何も食べてない。空腹になるのも当然だろう。


 それでトンカチを駆使し終わった後、ゲーム迷宮の壁は消失し、リアル迷宮の隔壁の方は床へと収納されて、両方とも通行できるようになったのだ。


「これで……」

「私達の勝利!」


 リンカとハイタッチをして、先程まで壁に隔てられていた場所を通り、対面にある扉まで進んでいって開ける。


 それからも迷宮の攻略はよく進んでいった。


 終わりが近づいてきているのか、エリアごとの滞在時間が長くなり、より手間のかかる仕掛けになってきていたけど、リンカのアイデアのおかげでどんな試練でも、犠牲を出す事なく通過出来ていた。


「リンカがいなかったら、もっと大変だっただろうな」

「そんな事ないよ。私のはルールの隅をつついてるだけだし。私の方こそ紅蓮君がいなかったら、心細くてこんな風に出来てたか分からないから」


 本当に一人で進んでいた頃と比べると、彼女の存在はありがたいと思う。そうでなくても一人でないという事がこんなにも力強い事だとは思わなかった。

 おかしな変化だ。自分以外の誰かと一緒に行動するなんて、今まではうっとおしいばかりだと思っていたのに。


(リンカは特別なんだよな。実加なんかは面倒臭いけど、他のクラスメイト達と違って楽だった。けど、そういうのとはまた違う感じで……)


 頼りにできる誰かがいて、頼りにされているという事実がある。

 それはおそらく信頼と言った類いのものかもしれない。


 自分の足りない所を誰かに補われるなど、屈辱でしかないと、馬鹿にされているようなものだと、紅蓮はずっとそう思っていたのだが、リンカに何かされてもそういった感情は一切湧いてこないのだ。


(リンカが凄いから叶わないのも無理はない……、ってそう思う分もあるんだろうけど……)


 やはり一番最初の出会い方が、影響しているのだろうか。

 あの時の彼女は、本当に僕が助けて欲しかった一番のタイミングで現れたから……。


 そんな風に考えてたら、自然と視線が向いていたのだろう。

 見つめられている事に気が付いたリンカが、こちらへ顔を向けてくる。


「どうしたの? 紅蓮君」

「あ、えっと……何でもない。本当に」

「そう?」


 慌てて視線をそらす。

 リンカは不思議そうな表情をしつつも、再びゲーム機へ視線を戻した。


 今は、ゲーム迷宮内でのトラップ探知を繰り返しながら、リアル迷宮で一歩ずつ歩みを重ねていく最中だ。二人でやってもいいいが、体力の面から見て僕達は交代で探知を行っているのだった。だから今はリンカの番。


(……なんにせよ、リンカと出会えてよかった)


 この先どうなるか分からないが、悪い事もたくさん起こるかもしれないし、今までもたくさん起こってきた。それでもこの迷宮で彼女と出会えた事だけは、感謝しようと、そう思った。






 そうこうして進むうちに、再び試練のある白い扉の前へと辿り着いた。目の前にあるものは、明らかに今までの物とは違う扉だ。

 部屋の扉にプレートがついている。


『これより先、最後の審判が待っている』


 そう文字が書かれていたからだ。


 最後。

 その言葉は否応なく、僕達に希望の存在を意識させる。


 ゲーム迷宮の最後?

 ここで終わりなのだろうか?


 本当に?

 ここさえクリアすれば、解放されるのだろうか。


 いきなりの事に混乱する。だがそれと同時に期待も膨らんでいった。

 きっと今なら、期待でいくつも風船が膨らませられるだろうし、それで空を飛べてしまうかもしれない。柄にもなくそんな想像力を働かせるくらいには、希望を持ったのだ。


「これで終わりだと思っていいのか……?」


 犯人が嘘をついていないのなら、とそんな都合の良い事を考えてしまいそうになる。

 裏切られるかもしれない可能性があると分かっていても、この迷宮から解放される光景を想像するのを止められなかった。


「結構越えてきたよね。大丈夫、もうそろそろだよ。きっと……」


 本当にそうだったら良い、と心の底から願う。


 最後の試練になるならばと、少しの休憩をとる事にした。

 急がば回れ、ではないが急いても上手く行かない事はある。最後ならばそれなりに難易度になるはずなので、準備もしっかりしておきたかった。


 それから僕達は十分な時間を使って、睡眠をとり、アイテムの確認をして、その後にリンカの提案で手を重ね合わせて気合を入れた後、最後の部屋へと進んでいった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る