第12話 協力して
目が覚めて、迷宮にいる事をしり、おかしな状況にいるままの現実だと思い知って少しどんよりした気分になる。
残念ながら迷宮内に時計は見かけなかったので、どれくらいの時間眠れていたのかは分からなかった。
けれど、僕もリンカも労はある程度回復出来ていたので、しばらく動く分には問題ないはず。
「むぅ、おはよう紅蓮君。君って寝起きいい方?」
「そういうリンカは、割と悪い方なんだな。どこ見てるんだ?僕はこっちだぞ」
思わぬリンカの弱点を知りつつも、寝ぼけている彼女と共にこれまでの振り返りを行って。これからの事に備える。
「私達はおかしな蜃気楼に飲み込まれて、ここに攫われた。そして、このめいきゅからでるために、一緒に頑張ってるとこ。うんオッケーです」
「でも、そのためにはゲーム迷宮も一緒に攻略しなくちゃいけない。そこが難しい所だ」
「あっ、皆はどうしてるのかな」
現状確認の最中、ゲーム迷宮にいる者達の事が思い浮かんだのだろう。
リンカが電源をつけて、画面をのぞき込む。
「皆もねてたんだ」
彼女の反応をみるに、どうやら向こうも休息をとっていたようだ。
僕もゲーム機をつけて、実加達の様子を見てみる。
あっちも同じように睡眠をとっていた様だ。
それは起床の挨拶が飛び交うメールの文面からも把握できた。
寝起きの悪い物が何人かいたようだが、こちらが指示を出したら実加がリーダーシップを発揮して起こしてくれていた。喧しくてうっとおしくてお節介なだけが取り柄みたいな奴だと思っていたのだが、こういう時は優秀な奴だ。
さあ、次の試練に立ち向かわなくては。
再びユニットを操作して、迷宮の探索を開始する事にした。
「気を付けて進もうね」
「ああ」
僕達は再び迷宮の中を移動。
トラップなどを避けつつ白い通路を進んでいく。
しばらくすると扉があった。
ゲーム迷宮、リアル迷宮のそのどちらにも、同じ白い扉がある。
「また、試練だな」
「いくつあるんだろうね」
「百個ぐらいあっても驚かないけど、それは勘弁してほしい」
「疲れちゃうもんね」
相変わらず保護色で見逃しそうな白い扉だ。
注意力散漫でいると、見逃してしまいそうになる。
トラップ探知を行いながら進むと、作業がマンネリ化してくるため、ついぼうっとしてしまいがちになる。だから、それもあながちありえない事とは言えない。
今までに扉を見逃してしまった事はないだろうか。
少し不安になる。
そう思っていると、励ますようにリンカが声をかけてきた。
「大丈夫だよ。これが次の扉。同じような事を続ける注意力には、自信がある方から」
「忍耐強いんだな」
「えへん」
世の中には、同じ事をやり続けるのが苦痛じゃないという人がいるらしいけど、リンカも
他愛もないやりとりを交わした後、白い扉を開けて部屋の中へ進む。
しかし、次の試練も中々のクセものだった。
リンカが加わって攻略がスムーズになってきたと思ったら、また詰まりそうな状況だ。
室内に入ってから十数分。
僕達は現在、攻略が行き詰って立ち往生している。
部屋の中にある目の前の透明な隔壁が開かないのだ。
ゲーム内迷宮の部屋は油にまみれた部屋だ。
リアル迷宮の相変わらず何もない。がらんとした部屋にいる僕達には分からない事だが、ゲーム迷宮はきっと不快な場所なのだろう。匂いがきついとか、ベタベタしてるとかそんな呟きがメールで届いてきている。
(眠るって事は疲労を感じるって事だし、臭いを嗅げたりするってことは感覚があるって事なんだよな)
犠牲にしてしまったユニット達が何を感じて消えてしまったのかが気になったが、そればかりはもう僕達には知る方法が出来ない。
考えても仕方のない事だった。
(いや、考えたくないって思いもあるけど……)
どちらにせよ、気づかないフリはもうしないと決めたのだ。知る事が出来る機会があったら、今度は目をそらさないようにしよう。そんな機会は訪れるかどうか、分からない事なのだが。
(思考がそれたな、今は集中だ。考えを切り替えよう)
一応、ここを通過するための簡単な攻略法は分かっている。
見れば、ゲーム迷宮の部屋の中央には着火装置があった。
ユニットを部屋に入れ、内側にあるスイッチで扉を閉めさせて、密室にする。
その後、着火装置を起動させると、爆発により隔壁が吹き飛び、問題が解決する様になっているらしい。それが最速の近道で、試練クリアへの一番簡単な方法だった。
だが当然その案は却下だ。犠牲が出てしまう。
代替案がないかと、リンカと共に顔を見合わせながら考え続ける。
「何かいい方法はあるか?」
「うーん」
今度ばかりは彼女と言えども、上手く状況を動かせるアイデアが浮かばないでいるらしく困っている様だった。
「どうする? 一度引き返して他に何かいい道具がないか調べるとか……」
「それも良いけど、その前にもうちょっと調べてみようよ」
「あっ、おい」
もう少し考えたい所だったが、リンカが移動。
数人のユニットを操作して、トラップ探知を行いながら部屋の中を調べに行ってしまう。僕も仕方なし同じくユニットを連れて、再び周囲を探りに。
部屋を調べたリンカは数分後、何かが分かったのか得意げな顔をしてなるほど、と頷いた。
聞けば、ゲーム迷宮にいる者達の方の反応を探っていたらしい。
「ゲームの方の壁は飴細工だったみたい。リンちゃんが甘い匂いがするって言ってた。油の種類も簡単に発火するような物じゃなくて撒かれたばかりの食用油だってコウ君が」
「そうだったのか」
初っ端の内容が初っ端だったから、必要な時以外見ないようにしているが、逆にリンカはメールを利点として、積極的に迷宮攻略に組みこんでいるようだった。
平然とした顔でメールを覗けるのは、おそらく僕と違って犠牲を出すような無茶な攻略をしてこなかったからだろう。
「こっちからもコミュニケーションが取れたらいいんだけどね。今みたいに意外と助かるんだよ」
リンカの方のクラスメイト達の人数は教えてもらっている。全体数はこちらよりも少ないが、最初から一人も犠牲にしていないらしい。休憩後に名前も一人ずつよどみなく呼んで人数を数えていたから、全員の得意事や性格などの情報は捕まる前からある程度把握しているのだろう。僕は最初から便利な駒としか見ていなかったと言うのに。自分には人の血が流れていないのかもしれない。話がそれた。今は自分の事は良い。
きっと、彼女は誰かに気を配ったり、他の人間を気に掛けたりするのが上手いのだ。
だから優しいリンカでも、ここまでやってこれたのかもしれない。僕とは違って信頼の結ばれたクラスメイト達……仲間達と協力して。
複雑な心境で彼女を見つめる。
視線の先のリンカは、真面目な表情でゲーム機に表示されたメール文面に目を通していた。
「壁の飴細工の厚さもそんなにないね。数ミリくらいだって。ゲーム画面だと私達には分からないから盲点だったよ」
判明した事を読み上げていくリンカに、そんな場合ではないと知りつつも我慢できずに尋ねていた。
「……リンかは怖くないのか? 不安に思ったりとかはしないのか? やっぱり信頼してるから、とかなのか? 僕たちの事を……ゲーム機で操ってる奴の事を何か言ってたらって、そう思うから僕は読めないでいるのに。何でそんな風に自然体にしていられるんだ?」
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