第10話 休息



 それからも、リンカと共に迷宮攻略を進めていく。

 これまでと違うのは知恵が増えた事と、ユニット……クラスメイト達にあまり無茶をさせないようになった事ぐらいだ。


 これまでの攻略で一番に問題となっていたのは、毒沼やら暗闇やらの悪路の踏破や、仕掛けられたトラップの処理だ。

 

 どうしようかとずっと頭を悩ませていたのが、これも先程と同様リンカのアイデアによって安全に対処できるようになった。


 これまでいちいち引っかかって確かめていたいたトラップ探知は、アイテムを進む方向に一回ずつ置きながらやる事にした。

 時間はかかるし、回収しなおさなければいけない手間もかかるが、ユニットを消費せずに済む手間だと思えば、他の手にしようなどとは思わなかった。


 悪路踏破の場合は、アイテムをフル活用して足りない知恵の分はクラスメイトや、リンカの方の知り合いに考えてもらったりして対処してきた。


 おおむねの問題はそれで対処できるようになったと見ていい。


 だが、ある程度進んだところで限界が来た。

 攻略が行き詰まったとかではなく、生身の方……体力面で問題が起きたのだ。


「リンカ、大丈夫か!?」


 隣を歩いていた少女がばったりと倒れてしまって、本当に驚いた。老人がショックを受けた時に心臓が止まりかけた、みたいな話を聞くが、まさしくそれが今起きたような感じだった。本当に焦った。心臓止まるかと思った。


 けれど、考えてみれば当然だ。ずっと小さなゲーム機相手に細かな作業をしてきて、気を張りつめていたのだから。いつ緊張が途切れても、おかしくはなかったのだ。


(そろそろ休憩とった方がいいかもな)


 リンカは欠伸をしながら、目を細めている。


「ふぁ、ちょっと眠くなっちゃった。休憩しよっか」

「びっくりしただろ。脅かすなよ……」


 平然とした様子で身を起こすリンカに脱力しながらも、安堵した。

 せっかく順調に来てるのに、こんな所で倒れてしまうなんて嫌だ。


 正直僕の方も疲れを感じていたので、ここらへんで休憩を入れる事にした。


 一旦通路に座って落ち着く。


 横に座ったリンカが、ゲーム機へ視線を落とす。


「レンちゃんや、コウくんたちも休憩が必要だろうしね」


 と、彼女はは心配そうにゲーム画面へと視線を向けつつも、未練をふりきって電源をいったん切った。

 呟いたのはおそらく、リンカのゲーム機に表示されているユニット達の名前だろう。


 僕の方はクラスメイトだったが、彼女の場合はどうなのだろうか。ただの知り合いなのか、そうでないのか。ある程度親しそうな雰囲気が感じ取れるので、顔見知りである事は間違いなさそうだが。


 二人並んで壁に背をもたれさせる中、気になっていたその事について尋ねる。


「リンカの方は……えっと、ユニット達はどんな知り合いなんだ? 僕の方はクラスメイトだけど」

「そうなんだ、私の方も同じだよ。ひょっとしたら私達って同じ学校に通ってるのかな? うーん、やっぱりそれはないね。だって私、中学生一年生だから」


 僕と同じようにクラスメイト達と共に巻き込まれたらしいリンカは、驚いたように目を丸くした後、こちらの頭頂部辺りを見てひとり納得していた。自分より背の低い僕を見て、納得したのだろう。面白くない。


 リンカに年下の子供として見られている事を考えると、胸のあたりがもやもやすると言うか、嫌な感じになると言うか……。


「年が大きくたって、偉くなるわけじゃないんだし……」


 それで、口から出たのはそんな不満げな言葉だった。


(違う、そういう事が主張したいわけじゃなかったのに……)


 なぜに思っている事と別の事を喋ってしまうのだろうか。この口は。分からない。たぶん、ちょっと考えたくらいでは判明しない事柄だろう。まるで思考の中身がブラックボックスだ。自分で自分の気持ちが分からない状態だった。


「あはは、別に馬鹿にしたわけじゃないよ。でも、大丈夫、小さい紅蓮君だって可愛いと思うよ」

「嬉しくない」


 少しだけ距離を詰めて傍に寄って来たリンカは、僕の頭を楽しそうに撫でまわしてくる。

 これは本当に嬉しくなかった。

 年上という存在はどうして、そういう行為をしてくるのだろう。

 

 あまり人生経験は豊富ではない方だけど、これまでに出会って来た年上はたまにそうやって僕の頭をなでてくるのだ。


 嫌がっている事を示す様に頭を離そうとするのだが、リンカはますます楽しそうにするだけだった。


 そんな風に会話をしていれば、数分後には眠気がこみあげてきた。

 こんな異常な状況でも、生物は眠れるようにできているらしい。抵抗らしい抵抗をする暇もなく、数秒の内に夢の中へと案内されてしまう。


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