第9話 攻略の鍵
僕とリンカのユニットたち、双方ゲーム迷宮でも合流したようだ。
画面が一気に騒がしくなる。
美加が積極的に新しいメンバーに向かって話しかけているようなので、向こうの騒がしさはなんだか想像できてしまった。
一体どういう原理で、クラスメイト達がユニットとなっているのか分からない。
そんな事はファンタジーの領域だし、アニメやゲームの話だとしか思えなかった。
だがそれでも、彼等の言葉を聞いた以上はもう気づかないフリはできない。
決めたのだ。
犠牲は出さない。ただの一人も。絶対に。
画面の中でテキストを……いや言葉を呟き続けるクラスメイト達の様子を見つめて決意を新たにした後、隣に立つリンカの顔を見る。
「準備、出来たか?」
「もちろん」
「じゃあ、行こう」
戦わなければならない。
ここから出る為にも、クラスメイト達を帰るべき場所に帰す為にも。
そう決めてからの、初めての試練が訪れた。
ノブに手をかけて白い扉を開け、室内を見る。
内部には、巨大な隔壁があった。色は透明。
部屋の内部は、隔壁で二分されていて、手前のこちら側と、奥のあちら側に分けられている。
隔壁の向こうの……向かいの壁には、僕達が入って来た時にくぐったような白い扉がある。おそらくあれが出口。次へ進むための扉だろう。
つまり僕達はどうにかして、あの隔壁を越えなければならなかった。
携帯ゲーム機の画面……その向こうに存在するゲーム迷宮を覗く。部屋が白いのは変わらずだが、そちらの部屋の中には別の物があった。ユニット達の目の前には巨大な天秤が鎮座している。
そこから少し離れた所には、水の入ったビーカーが置かれていた。
「……?」
そこで、ユニットからのものではないメールが届く。
どこのユニットの傍にも寄り添わないもの……空欄に表示されたメールだったので、今までと違うのは一目で分かった。まるで誰かに誘われて声をかけられても、一切好意的に応じない僕のように浮いている。
(そんな自虐の例えはどうでもいいか)
受けとったメールを読むと、そこには隔壁を開ける条件が書いてあった。
ゲーム迷宮にある天秤の皿、その両方に重りを乗せると、僕達のいる迷宮……リアル迷宮の隔壁が開く。それで、次の部屋に行けるらしかった。
重要なのは次の内容。
部屋の中にいるユニットは、左右どちらかの天秤の前に立っていなくてはいけない。
という点だ。
多い分には別にかまわないらしいが、それぞれの場所に最低一人は必ず立たせなければならない。
天秤の前の床には四角形の線が引かれている。ユニットは四角形の内部に立たなければならないらしい。
天秤の重りが均等でなかった場合は、重かった方に乗せたユニットが没収となるようだ。
……つまり皿の前に立っていたユニットが、その四角形の床から下へ落ちてしまうと言う仕組みなのだろう。
その場合のユニットの末路については……考えたくなかった。
「助ける為には、たぶん……重さを均等にするしかない」
天秤の皿二つ。
ここにまったく同じ品物を乗せなければならない。
ゲーム画面の左端、これまでにゲットしたアイテムの一覧を眺めながら考える。
これらの重さが分かればいいが、生憎とそこまで細かいデータは乗っていなかったから困るのだ。クラスメイトのデーターは細かく記載してあったと言うのに。
(載せるべきデータがおかしいだろ絶対)
リンカのゲーム画面も覗き込んでみる。
「そっちはどうだ?」
「うーん……」
彼女が持っているアイテムを共に眺めてみるが、全部違う品物ばかりだった。
同じ物が並んでいるなんて幸運な出来事はない。そもそも、同じ品物を入手できるのだろうか?
「全部違うやつばっかだな」
「そうだね。紅蓮君の方も?」
「ああ」
返事をしながら、頭を掻きむしる。日頃大人ぶっているくせに、こういう時に役に立つ事が思い浮かばない自分が情けなくなった。
ダメもとで、アイテムを乗せるなんて事は、絶対に駄目だ。
(そんな事して、重さが均等じゃなかったら……)
そんな予測の光景を想像すると、胃の辺りが絞られる様な感覚がしてくる。
当然、その案は却下だ。
それからも考え続けるものの、中々いい案が見つからない。だが、そんなこちらとは違い、リンカの方は解決策を思い付いたらしい。
「思いついた。こういうのはまともに考えちゃ駄目だね。君って名前と言動によらず真面目なのかな」
「どういう意味だよ?」
「ごめんごめん」
彼女のその言葉には少しむっとしたが、それよりも解決策の方が気になった。
「あの天秤に載せるのはやっぱりアイテムだよね。そしてアイテムは、同じ品物なら重さはおそらく同じ。データーに乗ってなくても、分かるのが一つあるよね」
「……?」
「その為の私だよ。どんなルートを通ってきても必ず持ってるアイテムがあるから……」
そう言って、悪戯っぽく笑ったリンカは、ゲーム機の画面を見せてきた。指で指し示すのは鍵のマークだ。
そうだ、監禁部屋の鍵だ。
それは、僕と出会う前に、最初の部屋を出なければならなかったリンカが必ず手に入れる物。
僕の物とリンカの鍵のグラフィックは同じ。
けれど、だからといって重さまでオバジとは限らない。
けれど、それを確かめる方法があるようだ。
リンカがゲーム機を操作する。
「その鍵を水の入ったビーカーに入れてもらおう」
ビーカーの前までユニットを素早く移動させた彼女は、鍵のアイテムを使うように指示してから、押す指示も出した。
ユニットはしばらくぼうっとしていたようだが、やがて意味を理解したらしい。
水の入ったビーカーにカギを沈めた。
ユニットのメールを読んだリンカが、「一めもり分の水かさが増えたみたい」と伝てくる。
なるほど。
僕も同じようにしてみる。
「……」
水の入ったビーカーの前にユニットを動かして、鍵の使用と押す指示をだした。
けれど……。
メールを読むのが怖い。
震える手でゲーム機を握っていると、リンカが手に取って読まれてしまった。
「うん、一めもり分水が増えたみたい」
すごく恰好わるかった。
うつむきながらゲーム機を返してもらう。
リンカの顔を見る余裕なんてなかった。
「ごめん」
「いいよ。私にできる事をやっただけだから」
彼女は気にしないといった様子で言葉を続けていく。
「じゃあ、カギを回収してから、ユニットを天秤の前まで移動させて……、置く指示を出そう。分からなかったら、気づくまでそれを繰り返す。きっと次も、私達の考えている事に気づいてくれるはずだよ」
「そうだな……」
沈んだ気持ちを抱えながらも、リンカに言われた通りにしてみる。
ゲーム迷宮でクラスメイトに指示を出して、アイテムを置く様に指示。
最初はこちらに意図に気が付かないようでいたが、リンカに言われた通り数回行えば、無事に鍵を天秤の上に載せる事ができた。
僕とリンカ二人分の鍵が、左右それぞれ天秤の皿に載った。
……、一拍おいた後、ゲーム内でファンファーレが鳴り響いた。
「やったね! クリアだよ」
「ああ!」
そして、隔壁が開いていく。
リアル迷宮、ゲーム迷宮共々に変化が起きて、向こう側へ移動できるようになった。
僕達は犠牲を出さすことなく無事に、試練をクリアすることができたようだ。
沈んだ気持ちが少しだけ晴れていった。
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