第4話 脱出ゲーム
周囲の状況を把握したら、少しだけ落ち着いてきた。
考える事は、犯人の事。
紅蓮達を誘拐した人間の目的は一体何なのか。
ここにマフラーがあるという事は、おそらく実加も捕まってしまったのだろう。
けれど、攫った人間を分断した理由は?
考えてみたが、分からない。
推測するための情報が少なすぎた。
むやみに動き回って開きもしないドアノブと何度も格闘して、余計な体力を消耗するわけにもいかない(体育会系の人間だったら、それでもどうにかできてしまうかもしれないが、紅蓮は自分で言うのも何だがひょろいもやしっ子だ。今は、手掛かりらしきものを調べるのが先決だろう)。
物思いから意識を引き戻し、再び手の中にある携帯ゲームへ集中。
機械の左側には、上下左右の方向キー、そして右側にはAボタン(おそらく決定ボタン)と、Bボタン(おそらく取り消しボタン)がある。
ボタンの種類を把握して、ゲームを進める。
ゲームをスタートさせると、場違いな勇ましいメロディーが流れて、画面が切り替わる。
そして、テキストが流れ始めた。
『勇敢なる少年少女たちよ。この迷宮にある試練を見事すべてクリアして見せれば、解放を約束し、どんな願いもかなえる事を約束しよう。君達の奮戦を期待している』
表示されたのは、そんな偉そうなメッセージ。
試練のある迷宮から脱出するという内容らしい。
分かりやすいシンプルなゲームだ。
しかし、それが分かったところで喜ぶ気持ちにはなれない。
「何が勇敢なる、だ」
僕達は、望んでここに来たわけではない。
その言葉は、こんな状況にいる自分には皮肉でしかなかった。
生死を握られて、犯人に怯えなければならない被害者を遠回しにあざ笑っているのだろう。
メッセージを読み終えた後、画面が変化。
僕がいる様な部屋が画面に映し出された。じっと見つめ続けるが、それきり変化は起きない。壁も床も天井も、ただただ白いだけで現実とそっくりな部屋だ。
だが、そこに一つのキャラクターが映し出される。
不安げに周囲をキョロキョロと見まわす姿は、気絶する前に見たばかりのもので、マフラーがない所だけが違っていた。
「まさか、実加……?」
そう、たった今画面に表示されたキャラクターは、上から目線で生意気で、お節介で馬鹿っぽい、クラスメイトの実加そっくりだったのだ。
それからもキャラクターは新しく表示され続けて、画面の中に増え続ける。
一人、また一人、と。
最終的には、十人になった。
みなクラスメイトの姿だ。男児も女子もいる。数はちょうど半々くらい。現れた姿のどれもこれも、見覚えのある者ばかりだった。
僕の知っている人間が、自分が日々遊んでいるゲーム機の画面の中に現れ出てくる。……なんておかしな事だろう。おかしい以外に何とも言えない。
(こんな物を見せて……、犯人は何がしたいんだ?)
だが、これを作ったのが犯人だと言うのなら、それは一つの可能性を示しているのではないだろうか。
今回の事件が、計画的犯行だという事を。
この誘拐事件は、前もって用意周到に練られて考えられていた事になる。
その場での思い付きの犯行などでは、おそらくないのだ。
そうでなければ、クラスメイトと同じ姿をしたキャラクターがこうも大勢画面に出てくるわけが無いのだから。
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