第5話 攻略開始
しかし、こうなっては……。
まるでこちらに興味を持たせたいが為に、手を尽くしたように思える。
(この状況は、たぶんこちらから何かしなければ始まらないな)
ものすごく嫌な気持ちになるし、犯人の手の平で踊らされる事に関しては不本意極まりないが、ゲームを進めてみるしかない。
とりあえず、ゲーム機を操作して画面の中でユニットを動かす。画面の右脇には、ユニット一覧というリストがある。
カーソルを合わせ、ヒューマンユニットと言う存在としてまとめられていた。並べられた文字のそれらを一つ一つボタンを押して見ていくと、名前や身長、体重など色々と細かなデーターが載っている。
「ユニットごとに名前がついてる。適正とか特技の一覧もあるのか……細かいな」
カーソルを画面内のユニットに合わせて一人選べば、(大雑把だが)指示を出せるらしい。
僕はその中から適当に一人を選んで、さっそく行動させた。
部屋の中をウロウロさせて、色々な指示ボタンを押したりしていく。
説明書を読んで理解するよりも、実際にやりながら操作を覚えていくのが僕なりのやり方だ。
あれこれ試しながら、ゲームで出来る機能を調べていくと色々な事が分かった。
シンプルな内容に似て、ゲームで出来る事もシンプルだ。
ユニットに出せる指示の内容は大まかなものばかり。
進む、そして下がる、押す、収納するなど。
そうしているうちに、動かしているユニットがアイテムを発見した。さっそく収納の指示を出す。
アイテムは一人一つまでしか持てないらしい。
ユニットの横に、手に入れたアイテムのマークが小さく表示される。
『監禁部屋の鍵を手に入れた』
画面にそんな言葉が出て、消える。監禁部屋とは、この画面に映し出された部屋の事だろう。
さっそく鍵マークにカーソルを合わせると『使用しますか』という文字が出た。
『Yes・No』
当然情報を得るために、Yesを選択。
同時に現実の、僕のいる部屋に変化。ガチャリ、と突然扉のノブが音を立てた。
「うわっ」
予想だにしていなかった事だ。突然すぎて、ゲーム機を落としてしまいそうになった。
(連れ去り犯がやってきたのか?)
そう思って身構えたのだが、待てども待てども誰かが入ってくる気配はない。
人の気配自体が感じられなかった。
扉の方へ恐る恐る近づきノブを回してみる。
すると、さっきまで固く閉じるばかりで一ミリも動かなかったのが嘘みたいにあっさりと扉が開いた。
「さっきは開かなかったのに。……。まさか、そういう事か」
先ほど行った事と目の前の出来事の関係性を、頭の中で結びつける。
僕は、(この部屋と同じ内装をした)ゲームステージでアイテムの鍵を手に入れた。
そしてその鍵をゲームで使用したとたんに、僕のいる現実の部屋の扉が開いた。
つまり。
ゲーム内の迷宮を攻略することによって、僕のいる現実の状況も攻略できるようになるのだ。
おそらく、この部屋の外は、このゲームのステージみたいな迷宮の様相になっているのだろう。
犯人は、その迷宮をゲームをして上手く脱出して見せろと言っているらしい。
ようするに、これはゲーム。
ユニットをいかに効率よく動かすか、そしていかに頭を使ってユニットを動かして自分を脱出させるか、のゲームなのだ。
そう考えたら重く押しつぶされそうだった心が軽くなる。
自然と口元に笑みが浮かんだ。
「なるほど分かった。望むところだ。僕にゲームで勝負を挑むなんて」
他の何かで挑まれたら、自信はなかっただろう。純粋な力勝負など、もっての他だ。運動する機会など授業以外なかった紅蓮では、数秒も持たずに負けてしまえる自信がある。
だが、それがゲームなら別だ。
犯人は愚かだろう。
僕が日常の中でいったい何時間、ゲーム機を握り続けてきたと思っているのか。
「受けて立ってやる、その勝負」
だてに、現実の世界の時間を消費して仮想の世界に漬かりきっていたわけではない。
犯人に思い知らせてやるのだ。
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