強行突破④
同じ頃、セルメルトはまた机の上の緊急ランプが点灯していることに気づき、端末を確かめた。
画面にはスズムシと紫の目のトンボのマーク。
送られてきたデータをそれぞれ確かめてみると、セルメルトの眉間にシワが寄る。
「完全におかしくなっている………」
セルメルトはそう呟くと電話の受話器を取った。
◇ ◇ ◇
さらには、ラミアも議長室で端末の画面を眺めていた。
が、いつもなら九恩から送られてきているはずのデータがなかった。
今日は、まだなのかしら………?
そんなことを思いながら、机の隅のほうにある卓上カレンダーほどの大きさのパネルを見た。
そこには賢者評議会の各評議員が端末で送信してきたそれぞれの行き先や現在の居所がリアルタイムで表示されていた。
その目的は緊急時への対応のためだったが、今ではもっぱら別の用途で重宝する事態となっていた。
ずっと偽っているのでは………?
ラミアは、いよいよ不信感を抱き始めていた。
セルメルトの現在地を確認してみると、いつもながらにコスモタワーになっていたからだ。
これまでも、何度か用件があった時に執務室に連絡したことがあったが、ほとんど不在だった。
だから、念のために、また電話の受話器を取って内線をかけてみた。
………。
だが、セルメルトは出ない。
やはり、実際はここにはいないようだった。
一度、調べてみる必要がありそうね………。
ラミアはそう思いつつも別の番号にかけると、モニターにナイデル・ホスキーが映った。
「私です、ラボへの棺の搬入が終わったら、調べてほしいことがあります」
『何でしょうか?』
「副議長の居場所を突き止めてほしいのです。ですが、くれぐれも内密に」
『了解しました』
そして、通話を終えると、すぐに着信が入った。
「ラミアです」
受話器を取ると、今度はモニターにセルメルトが映った。
『議長、緊急会議の開催を要請いたします』
「事案は何ですか?」
『アンドロイドの暴走です』
「………!?」
その衝撃的な言葉に、一瞬、驚いたものの、すぐに気持ちを切り替えて冷静に答えた。
「このアルテミオンで、そのようなことが起こり得るとは思いません」
『もちろんです。ですが、それは私が手がけたアンドロイドに関してだけです』
「どういうことなのですか?」
『暴走したのは、地球観測任務に就いている個体です。しかも三体ともです』
「………」
それを聞くや、ラミアの目元がわずかに上ずった。
「間違いないのですか?」
『はい、証拠もあります』
「念のために、見せてもらえますか?」
『分かりました、今から転送します』
セルメルトがそう答えるのを聞くと、ラミアは端末を見た。
………!?
そして、送られてきたデータを確認するや、またかすかに目尻を震わせた。
それを見たセルメルトは、これみよがしに嫌味を口にした。
『半年間も捏造したデータを送りつけられていたにもかかわらず、お気づきにならなかったようですね?』
「………」
ラミアはグッとこらえた。
セルメルトが居場所を偽っていることも、今は気がついていないふりをすることにした。
「全評議員に召集をかけます。そして、明日、緊急会議を開きます」
『かしこまりました。できるだけ早めにお願いできればと思います。何しろ、三体のうち一体は逃走中ですので』
セルメルトがそう言ってモニターから消えると、ラミアは位置情報表示パネルで源川のところを見た。
すると、いつもなら“調査”のことが多いにもかかわらず、珍しくラボとなっていた。
それを確かめると、ラミアは電話をかけた。
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