強行突破③
「それで、六凡について何か分かったことは?」
『いえ、何も………』
九恩は三玲のその返答に含みを感じたので、確かめてみた。
「どうした? 何かあったのか?」
「………」
三玲はしばし黙してから答えた。
『正直なところ、そこまで手が回りません………来るべき時のために人間の協力者が必要になってきますが、今、すでに信頼できる人物と行動を共にしています。その人物は公共性の高い仕事をしていて、立場的にも管轄する組織のトップであり、人格者でもあると判断しています。ただ、まだ真実を明かしていないので様々な日々の現実問題を優先せざるを得ないため、私自身、その辺の兼ね合いの中で動いています。二つのものの探索も、その合間をみて行っているのが現状です。ですが、アレに関しては、私以外にも探している者がいて、すでにいくつもの場所で調査をしたと思える形跡も見つかっていますので、急ぐ必要があると思います………』
「そうなのか………? どういうことなのだ………?」
『はっきりとは分かりませんが、状況から推測できることとしては、今回の輸送機での件のように、何らかの理由で誰かがあの書物を手に入れて解読している可能性があるということです。六凡が手放すことは考えらませんので』
「だとしたら、なおさら悠長なことはしていられないな………」
九恩は自らの長い思案期間のシワ寄せを三玲が一身に受けていたのだと改めて認識し、自戒の思いを深めた。
「一つ片づけなければならないことがあるので、それが終わり次第、最大速度で向かう。順調にいけば、明後日中には到着するだろう」
『了解しました、着いたらご連絡ください』
「分かった」
三玲がささやきさんの画面から消えると、九恩は背中越しにチラッとリンリンを見た。
さて、どうしたものか………?
それから、しばし考える。
多少、手荒なことになるが、やむを得ないか………。
やがて九恩は、制服の上着のファスナーをそっと下げたあと、振り返りざまにそれを脱いで投げた。
頭から服を被せられたリンリンはジタバタしたが、すぐさま駆け寄った九恩が首の後ろにある開閉部分を開けて強制停止ボタンを押すと動かなくなった。
が、その様子を撮影するかのように、紫メガネの二つの目が激しく明滅した。
九恩は操縦席に戻るなりパネルを操作して緊急発進モードをオンにした。
すると、瞬時にエンジンが作動した。
同時にカブトムシの羽も開いて機体が急速前進し、半ば体当たりするように紫メガネを押しのけると、そのまま飛び去った。
何とか切り抜けられたか………。
九恩は羽を損傷して飛行不能になっている紫メガネとの距離がぐんぐん開いていくのを確かめると、一息ついた。
そして、シートに体を預けると、正面のモニターに映る小さな光点を見つめた………。
一方の三玲は、複雑な思いを抱えながらささやきさんを眺めていた。
九恩の配慮が嬉しくもあったが、やはり申し訳ない気持ちのほうが強かったからだ。
これで、完全に共犯者となってしまったのだから。
だが、まだ弁解できる可能性はあるように思えた。
部下を守るのが上司の務め。
九恩のその言葉を借りるなら、独断行動をとった三玲をかばうために仕方なく映像データの偽装を行い、最後は自ら地球まで出向いて連れ戻そうとした。
そういうことにしておけば、情状酌量の余地が無きにしも非ずだろう。
と、三玲がそんなことを考えていた折、突然、呼び出し音が鳴った。
ポケットから電話を取り出して通話ボタンを押すと、画面にマナブが映った。
『すずらん通りでカエル化現象です!』
「すぐに行くわ!」
三玲はそう応答すると、急いで木立の中を引き返した。
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