第四話 まちぶせ①

 少し早く来すぎたためか、テレビ局の入り口はゲートが下りていた。


 職員も、まだほとんど出勤してきていないようだった。


 建物の防犯管理を行う守衛が、正門脇の詰め所の中で眠そうにあくびをしている。


 と、そこへミサコがやってきたのを見た三玲は、車から下りて背後から近づいていった。


「ちょっと見せてほしいものがあるの」

「………!?」


 振り向いたミサコは、三玲を見て思わず驚いた。


 ◇ ◇ ◇


 ミサコは三玲と共に屋上に上がると、まず録画した映像で彗星の通過と光る粉を確認した。


 それから、その部分で一時停止をすると、三玲にビデオカメラを渡した。


「アゲハはお告げで二十五日から三十一日まで、七つの彗星が毎日一つずつ地球の近くを横切っていくと予言しました。今日が三つ目で、ちょうど、そこに映っています」


 が、三玲は彗星に関心を示すこともなく、何度も早送りや巻き戻しを繰り返していた。


 それを見ていたミサコは不審に思った。


「あの、三玲主任もアゲハの予言を確かめたいんじゃないんですか?」

「違うわ」

「じゃあ、何ですか?」

「別のものよ」


 考えられるとしたら、やっぱり、隕石………?


「隕石を調べたいなら、観測所の観測機を使えばいいんじゃないんですか?」

「私が見たいのはそれでもないわ」


 どういうこと………?


 ミサコは早朝に自分のことを待ち伏せしていた三玲の様子を観察するように見た。


 目の前にいる女性は端正な顔立ちで、美人の部類に入る。


 老中会議直轄の機関の主任を務めているくらいなので、恐らく職務遂行能力も高いのかも知れない。


 だとしたら、天は二物を与えていることになる。


 でも、何かが欠けているような気がする。


 ミサコの全身に、朝日からの柔和で温和な陽光が染み込んでくる。


 そう、足りないものは、まさにそれだった。


 人間的な感情味の薄さ。


 だから、どことなく冷たくて、機械的な印象さえ受ける。


 が、人間は一人一人みんな異なる個性を持っているのだから、そういう人がいるのも自然なことなのだろう。


 ミサコはそんなことを考えつつも切り出した。


「ちょっと聞いてもいいですか?」

「何?」

「私は回りくどい言い方が嫌いなので、単刀直入に聞きます。三玲主任は“倒幕派”の仲間ですよね?」

「違うわ」

「でも、いろいろあって本京都から準京都にやってきたんですよね? 都落ちしたのなら、本京都に恨みを持っていてもおかしくないと思います。それで、アゲハに便乗する形で隕石を見つけ出して、新江戸政府に揺さぶりをかけようと考えているんじゃないんですか?」

「それも違うわ」

「じゃあ、何を見たくて、わざわざ朝早くにここに来たんですか?」

「だから、それは言えないわ」

「どうしてですか?」

「事情があるからよ」

「それは、機密事項だからということですか?」

「違うわ」

「だったら、何故なんですか?」

「言っても誰も信じられないからよ」


 それを聞いたミサコはムッとなった。


 三玲がずっとビデオカメラの映像を見たまま答えていたからではない。


 今の一言は、職業上の真義にもかかわることだったからだ。

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