まちぶせ②

「三玲主任もご存知だと思いますが、私はテレビのリポーターをしています。もし視聴者に伝わらないことがあったとすれば、それは私のモチベーションと情報の内容の問題だと思います。中身のないことを話さなければならない時は、どうしてもやる気が起きません。そういう性格なので、仕方がないんです。つまり、何を言いたいのかというと、伝える内容に嘘や偽りがまったくなければ信じてもらえるはずだということです。真実なら必ず誰の心にも届くはずですから。だから、どんな事情なのかは知りませんけど、そういう言い方はとても失礼に値すると思います。まさに本京都的です」

「残念だけど、その逆に、言わなくても分かることもあるわ。私は人間に関する基本的なことは知っているから」


 無感情風の三玲が平然とそんなことを口にしたので、ミサコの負けん気に火がついた。


「まるで他人事のように聞こえますけど、そういう主任さんだって人間じゃないんですか?」

「違うわ」

「………」


 ミサコは、一瞬、その言葉をどう受け止めていいのか分からなかった。


「それは、どういう意味ですか?」

「だから、あなたたちとは違うのよ」


 それを聞くや、ミサコは失望した。


 本京都人は準京都の住人を同じ人間として見ていない。


 やっぱりこの主任さんも、その種の人なんだ………。


 しかも、最も質の悪いタイプ。


 もはや本京都人ではないにもかかわらず、準京都にも馴染めず、かつ、そこで暮らす人を見下し続けている。


 そう判断すると、三玲に対する興味が急速に失われていった。


「あの、ビデオカメラを返してもらえませんか?」


 が、ミサコがそう言った時、三玲が何かを見つけたかのように映像をじっと凝視するような素振りを見せた。


 さらに、映っているものと実際の屋上からの景色を比べているのか、しばし三橋山のほうを眺める。


「もういいわ」


 それから一言だけそう言い残すとミサコにビデオカメラを手渡し、エレベーターに乗り込んでいった。


「もう、何なのよ!」


 ミサコは束の間でも三玲の相手をしてしまったことに腹が立ちながらも、一時停止されていた部分の映像を見てみた。


 すると、流れ星のような一条の光が弧を描きながら三橋山付近に落ちる様子が映っていた。


 隕石にしては小さ過ぎる。


 じゃあ、何かしら………?


 そう考えかけたが、すぐにやめた。


 三玲のことなど、もうどうでもよくなっていたからだ。


 だからミサコはビデオカメラを空に向け、また録画モードにセットし終えると、エレベーターに向かった。

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