心に届く雨②

 その頃、同じようにアパートから駆け出たトモキは、食べかけのパンをくわえながら駅へと急いだ。


 チラッと腕時計を見ると、六時十五分。


 電車の出発時刻まであと五分。


 それに乗れなければ次は三十分後で、またミサコに遅刻呼ばわりされてしまう。


 時折、何かキラキラするものが舞っているのが視界に入ったが、そんなものに構っている余裕などなかった。


 日頃の運動不足のためか、すで息が上がり始めている。


 それでもなんとか商店街のアーケードを突っ切って左に曲がると、通りの五十メートルほど前方に交差点が見える。


 そこが最重要ポイントであり、命運を左右する分水嶺でもあった。


 まだ朝の早い時間だったにもかかわらず、二車線ある幅広の道路には間断なく車が行き交っていた。


 だから、一旦信号が赤に変わると、なかなか青にならないのだった。


 しかも、目的地である駅は、その交差点を過ぎてすぐ右側にあった。


 よし、行けそうだ!


 トモキは歩行者用の信号がまだ青を灯しているのを見て取るや、走る速度を早めた。


 その矢先、横断歩道まで残り二十メートルを切った辺りで、点滅し始めた。


 あっ、もうちょっと待ってくれ………!?


 もがくように腕を振り、もつれかけながらも足をバタつかせるトモキ。


 が、その甲斐もなく、数メートル手前で赤になってしまい、目の前を次々と車が通り過ぎていく。


 トモキは息を切らしながらも、色褪せた駅舎の朱色の屋根とホームを見た。


 どうやら、まだ電車は来ていないようだった。


 すぐそこなのに………!


 と、そんな折、トモキに向かって光る粉の一つがゆっくりと落ちてきて、やはり胸に吸い込まれるようにして消えていった。


 ところが、焦って足踏みをしていた当の本人はまるで気がつくこともなかった。


 そして、ようやく信号が変わると同時に電車がホームに滑り込んできたので、トモキはもだえるように駅へとダッシュした。

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