第二十一話 ギリギリの決断①

 ノボルが電車から下りて楠川駅の改札を抜けると、街頭大型モニターにニュース映像が流れていた。


「今日も、カエル化現象とバタフライ現象が発生しました。それに関して、砂子坂観測所が会見を開きました。その模様をご覧下さい」


 女性キャスターがそう言うと、モニターの映像が切り替わった。


『カエル化現象の原因について、何か分かりましたか?』

『まだ詳しいことは分かっていません。現在、調査中です』

『毎回そう言っていますけど、一体、いつになったら分かるんですか?』

『はっきりとしたことは言えませんが、一日でも早く原因を究明できるよう最善を尽くしています』

『じゃあ、バタフライ現象についてはどうなんですか? 原因や具体的なことなどは?」

『それについても調査中ですが、バタフライ現象も発症者が他者に危害を加えることはありません。昨日は第三環区のマーケット、今日はダイアモンドストリートで発生しましたが、適宜、対処しております。ですので、ご安心下さい。また、もし遭遇した場合は、カエル化現象と同様に、速やかに私たちまでご一報ください』

『長官が言っているのは、見つけたら連絡しろということだけで、中身がまったくないに等しいですよね? そして、何かあれば現在調査中だと言いますが、いつまでたっても分からないままです。本当に真面目に調査しているんですか!』

『いい加減にしてくださいよ! 結局は、長官、あなたも本京都の人間だっていうことですね? 私たち準京都の人間などどうなってもいい、そう思っているということですよね!』

『どうなんですか! 何故、何も言わないんですか! 私の言う通りだから、反論できないんだ!』

『長官、あなたには自分の考えがないんですか! 毎日、ただボケーっと生きているだけのボンクラですか!』

『要するに、長官は私たちのことをバカにしているということですね! それが責任ある立場の人間が取る態度ですか! 恥を知るべきだ!』


 モニターには答弁者と三人の記者が交互に映し出され、そのやり取りが放映されていた。


 が、ノボルには、意図的に編集されているようにも思えた。


 あまりにも一方的な流れだからだった。


 そして最後は、いつもながらのお決まりのシーンだった。


 女性リポーターがアップで映し出される。


『長官、よろしいでしょうか! 予言者アゲハは………』


 が、突然、映像が途切れて真っ暗になり、数秒後に再び女性キャスターが登場する。


「それでは、次のニュースです。今朝、第二環区の繊維加工場で、工場一棟と隣接する倉庫が全焼する火事がありました………」


 ノボルはまるで関心を示すこともなくモニターの前を行き来する人たちを横目に、駅前の一角を通り抜けようとした。


 と、その途中、昨日も見かけたウグイスバンドガールがいて、やはり手当たり次第にチラシを配ってた。


「ラストクリスマスは過ぎたわ! もう二度とやってこないの! 新しい夜明けが訪れない限りは!」


 また意味深なことを言っていたが、道行く人たちは関わらないように避けていく。


 ノボルもできるだけ通りの端を進みながらも、今度はうまく距離を取ってやり過ごした。


「とにかく時間がないの! 今日を含めても、あと六日しか残されていないのよ! このままでは世界は闇に飲まれてしまうわ! だから、これを持っている人の情報がほしいの!」


 ところが、そこまでは背中越しに声が聞こえたものの、またもや急に静かになった。


 気になって振り返ってみると、本屋の店先に貼ってあるものをじっと見ている。


 視線の先には青く澄んだ地球。


 それは、人工衛星から撮影した宇宙の写真集の宣伝用ポスターだった。


 写真に興味があるのかな………?


 その姿があまりのも真剣で、かつ、神妙な面持ちだったので、ノボルはふとそんなことを思ったものの、ウグイスバンドガールが再び動き出す前に立ち去ることにした。


 そして、本屋のやや上方でホバリングしていた茶色メガネが、その様子を撮影していた。

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