第二十話 孤軍奮闘①
トモキが慎重に正面入り口脇にある社有車用の駐車スペースに車をとめると、ミサコはドアをわずかに開けた。
「ちょっと、これでは無理だわ」
「でも、これでギリギリなんです………」
「まったく、窮屈で仕方ないわ!」
ミサコは横の車に触れそうなドアを押さえながらそう言い、体を斜めにして何とか外に出た。
ブラックボックスがあとから割り込むように増設されたことで駐車スペースが縮小されてしまい、外出のたびに煩わしい思いをしなければならくなっていた。
「あんなジャマなものがあるからよ!」
だからミサコはドアを閉めると、ブラックボックスに向かって堂々と言い放った。
◇ ◇ ◇
ミサコとトモキがまず四階にある社会部のフロアに戻ってくると、同僚たちがヒソヒソ話を始めた。
それは、いつものことだった。
だからミサコは気にすることもなかったが、一緒にいるトモキが申し訳なさそうにペコペコしていた。
そして二人が窓側の一角にある自席に着いたところで、フロアの一番奥にある部長室の扉が開いた。
「ミサコ! 何度、尻拭いをさせるつもりだ!」
頭頂部の地肌が薄く見えかかっている部長が、唾を飛ばさんばかりに怒鳴った。
「私は多くの人が知りたいと思っていることを伝えようとしただけです。何も間違ったことはしていません」
「間違っている、完全に! お前があちこちで危うい発言をするたびに、私の立場が脅かされるんだ! この仕事を続けたいのなら、もっと利口になることだ! さもなければ“おさらば”することになるぞ!」
部長はそう言うと激しくドアを閉めた。
フロアに気まずい沈黙が流れた。
おさらばすることになる。
それは、マスコミに携わる者たちを震撼させる隠語だった。
新江戸政府の意向にそぐわない行動をする者は謎の死を遂げる。
当然、関係当局の仕業だと誰もが思うものの、警察ですら関与できなかったので泣き寝入りするしかなかった。
だからみんな従うしかなかったが、ミサコだけはそんな脅しになど物怖じもせず、部長室に向かって言い返さんばかりの表情をしていた。
「データを確認したら、すぐに持ってきて!」
「はいっ………!」
そして、苛立ちながらもそう言って立ち上がったので、トモキは急いでカメラの映像データをチェックし始めた。
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