会見⑥
窓のない暗い室内。
何台ものテレビと端末。
ブラックボックスの中では、テレビ中継やネット空間の監視、検閲が行われていた。
そして、鋭い目つきで画面をチェックしている隠密警察の男たちは、それぞれが緊張した面持ちで放送遮断用のレバーに手をかけながら、手元灯で何度も指示書を確認していた。
朱の筆で「法度事項」と記されたその極秘の書類には【倒幕派、アゲハ、隕石、予言】など、多数の言葉が禁止文言として指定されていた。
◇ ◇ ◇
会見場で繰り広げられる異様なまでの佐山へのバッシング。
それは毎回のことだった。
必ずそこに行き着いてしまう。
キリがなかった。
ドア脇に控えていたヒナコも、見ているのが辛かった。
だが、ようやくこれで終わりだった。
言いたいことをぶつけた記者たちも、これ以上は無駄だと分かっていた。
あとは、お決まりの展開を残すのみ。
ヒナコが一言も発言せずに座っているミサコを見ると、どうやらタイミングをはかっている様子だった。
トモキもチラッとミサコに目を向けた。
いつでもカメラを向けられるように。
やがて、咳払いをした佐山がゆっくりと口を開く。
「他にも何かありますでしょうか? もし会見の趣旨に合った質問がないようでしたら、これで終了と………」
「長官、よろしいでしょうか!」
と、佐山の言葉が終わる直前にミサコが立ち上がったので、トモキはすぐさまカメラを向けた。
◇ ◇ ◇
放送局の二階では、岡倉が編集機の横にあるテレビでその模様を見ていた。
そして、ミサコが口を開いた。
『予言者アゲハは………』
が、突然、画面が真っ暗になった。
岡倉は電子タバコの吸引部をガリッと噛んだ。
◇ ◇ ◇
「お疲れさまでした………」
会見場に誰もいなくなると、ヒナコはカップの水を佐山に差し出した。
「ありがとう」
佐山は礼を言ったあとで一口飲んだ。
会見でさほど話をしたわけではなかったが、喉を通って胃に落ちていく水の冷たさが心地よかった。
一度ゆっくりと息を吐いた佐山は、カップの中を見た。
水の中に一つの色が落ちれば全体が染まる。
さらに違う色が加われば、混ざり合って一つになる。
だが、もし「仕切り」があれば、溶け合うことなく別々の色のまま。
それが今の本京都と準京都の状況だった。
「恐らく、彼女には信念があるのだろう。信じるものがある人間は強いものだ。だから、あまり目立ちすぎるのも気がかりだな」
「あのリポーターさんのことですか?」
「ああ、そうだ」
佐山はそう言うと、またカップの水を飲んだ。
本京都人が準京都の人間のことを案じるなど、まずないことだった。
にもかかわらず、佐山という人にはそれが普通にできるようだった。
だからヒナコは、じっと佐山の横顔を見た。
「どうかしたのか?」
その視線に気づいた佐山が顔を向けて来たので、ヒナコは慌てて答えた。
「いえ………! 明日の準備をしてきます!」
そして、そう言うや、小走りで部屋を出た。
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