会見⑤
「最初の質問者が言った通り、私たちは日々、カエル化現象に罹る危険にさらされています。それなのに、本京都は知らぬ存ぜぬですか? 私たちからたくさん税金を吸い上げているのなら、そのお金でまともな対策を取るべきではないんですか!」
「それは、私には答えられません。老中会議によって決定されることだからです」
「私は長官に聞いているんですよ?」
「申し訳ありませんが、お答えできません。私に答えられる範疇を超えています。とにかく、どちらの現象であれ、遭遇した場合は近寄らず、私たちに連絡してくださいとしか今は言えません」
「いい加減にしてくださいよ! 結局は、長官、あなたも本京都の人間だっていうことですね? 私たち準京都の人間などどうなってもいい、そう思っているということですよね!」
トモキは三人目の記者と佐山にそれぞれカメラを向け続けながら、会見場のムードが険悪になっていくのを感じていた。
フェンスによって隔てられた本京都と準京都との間の溝は、あらゆる場面で感情的な対立を引き起こしていた。
しかもその深い部分では、双方がよりねじれた思いを抱いていた。
だから会見場には準京都側のメディア陣しかおらず、放送も本京都側には流されていなかった。
それだけではなく、どんなことであれ本京都の人たちに準京都側のことが伝えられることはほとんどなかった。
軽視、軽蔑、無関心………。
本京都人にとって、準京都人は“存在していないのと同然”だからだった。
一方の準京都側は、自分たちを無視して決定された様々な事柄も含めて、本京都側から情報を得ることはできなかった。
どんなに要求しても、まるで相手にされないからだった。
そのため準京都の人は、本京都に対する不満を極限まで募らせていった。
怒り、妬み、憎悪………。
そして、最も許せないのは新江戸政府。
だが、公の場で批判することはできなかった。
治安維持機関に逮捕されてしまうからだ。
またメディアに対しては常に検閲がかけられているため、放送中断や出版停止の措置が断行された。
だから記者たちはその腹いせとばかりにこの会見の場を利用して、佐山を標的に毎回ギリギリの戦いを挑んでいたのだった。
「どうなんですか! 何故、何も言わないんですか! 私の言う通りだから、反論できないんだ!」
「長官、あなたには自分の考えがないんですか! 毎日、ただボケーっと生きているだけのボンクラですか!」
「要するに、長官は私たちのことをバカにしているということですね! それが責任ある立場の人間が取る態度ですか! 恥を知るべきだ!」
腹立たしさをおさえられなくなった記者たちは、一斉に声をあげた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます