会見④

「カエル化現象の原因について、何か分かりましたか?」


 トモキはまた質問中の記者を映したあとで佐山にカメラを向けた。


「まだ詳しいことは分かっていません。現在、調査中です」

「毎回そう言っていますけど、一体、いつになったら分かるんですか?」

「はっきりとしたことは言えませんが、一日でも早く原因を究明できるよう最善を尽くしています」

「それまで、私たちは危険にさらされ続けるんですか?」


 記者があえて過激な言葉を使ったのに対して、佐山は丁寧に噛み砕いて答える。


「これは何度も申し上げていることですが、カエル化現象の発症者が他者に危害を加えることはありません。あくまでもカエルのような振る舞いをするだけです。その点は誤解のないようにしていただきたいと思います」

「それはつまり、とばっちりを受けてケガをする可能性もないということですね?」

「まったくないとは言えませんが、基本的には、今、申し上げた通りです。ですから、遭遇した場合は近寄らず、私たちに連絡していただければと思います」

「いくら危害を加えられないからといって、いつ自分がカエルになってしまうのかも分からない中で暮らすのは恐ろしいことだと思わないんですか! 長官の言い方は、まるで他人事ですね!」


 ◇ ◇ ◇


 街角にある街頭大型モニターの一つには、会見の様子が映し出されていた。


 が、行き交う人々はチラッとそれを見るものの、白けた様子で通り過ぎるだけだった。


 ◇ ◇ ◇


「ああ、まどろっこしい!」


 三階でエレベーターを下りた三玲が観測機の前までやってくると、マナブが慣れない手つきで操作盤に数値を入力しようとしていた。


 ところが、モニターにはその都度エラーが表示されていた。


 そして、背後の気配に気づいて振り返ったマナブは、そこにいたのが三玲だと分かると、腹を決めたように立ち上がった。


「主任! お願いがります! 見ての通り、俺には機械イジリは無理です! それに、もうアイツのお守りは懲りごりです! 俺にも外回りの仕事をさせてください!」


 返答を待つマナブの表情には鬼気迫るものがあったにもかかわらず、三玲はあっさりと言った。


「いいわ、ちょうどタツオだけでは手が回らなくなりかけていたところだったの。明日から、外回りを頼むわ」


「本当ですか………!? ありがとうございます!」


 マナブは弾けるように声を上げると、エレベーターを使うこともせずに勢いよく階段を駆け下りて行った。


 フロアに誰もいなくなると、三玲は観測機の操作盤の前まで行き、右手の人差し指を近づけた。


 指先が開いて細いプラグがむき出しになる。


 それを操作盤のジャックに差し込んでプログラムの読み込みを試みると、モニターが数回乱れる。


 さらに続けると、今度は観測機からキュンキュンという壊れそうな音が起こり始めた。


 やはり、システムが古すぎてアクセスできないようだった。


 三玲は仕方なく操作盤から人差し指のプラグを抜いた。


 ◇ ◇ ◇


 会見場では二人目の記者の質問が続いていた。


「一つ確認させてもらいたいのですが、カエル化現象は本京都でも発生しているんですか?」


 一旦、記者を映したトモキは、またすぐに佐山にカメラを向ける。


「いえ、発生していません」

「おかしいじゃないですか? どうして準京都だけなんですか?」

「詳しいことはまだ分かっていません」

「じゃあ、バタフライ現象についてはどうなんですか? 原因や具体的なことなどは?」

「それについても調査中ですが、バタフライ現象も発症者が他者に危害を加えることはありません。昨日は第三環区のマーケット、今日は第一環区のダイアモンドストリートで発生しましたが、適宜、対処しております。ですので、ご安心下さい。また、もし遭遇した場合は、カエル化現象と同様に、速やかに私たちまでご一報ください」

「長官が言っているのは、見つけたら連絡しろということだけで、中身がまったくないに等しいですよね? そして、何かあれば現在調査中だと言いますが、いつまでたっても分からないままです。本当に真面目に調査しているんですか!」


 と、そこで三人目の記者が大きく手をあげるや、黙っていられずに割って入ってきた。

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