球体と円環②

 大丈夫だ………。


 外に出たノボルは、まず目に飛び込んできた向かいのコインランドリーの看板を確かめる。


 次に、アパートの階段を下りて路地の角を曲がり、家並みの様子や公園の遊具なども眺めてみる。


 ちゃんと見える………。


 とりあえずノボルは安心すると、茅葺き屋根を乗せたような形のお寺を過ぎて商店街に向かった。


 まだほとんどの店舗のシャッターが閉まっていたものの、ひのまる屋だけは窓から湯気が漏れ出しているのが見えた。


 そのあとで住宅街の細い小道を数分ほど進むと、やがて鳥居が見えてきた。


 一旦立ち止まり、神域に入る前に一礼する。


 ふと顔を上げると、今日も夜明け前の空にオリジナルムーンとエンジェルムーンが幻想的に浮かんでいた。


 どことなく、昨日よりもそれぞれの間の距離が縮まっているような気がする。


 ノボルがそんなことを感じていると、また二つの月の近くを一筋の光が尾を引いて流れていた。


 昨日に続いて、今日も彗星が………?


 そして、同じように、キラキラと光る粉のようなものが空から降ってくる。


 と、ノボルが神秘的な光景を見ている折、一人の中年女性がホウキで境内の掃除をしていることに気がついた。


 これまでにも何度か見かけたことのある人だった。


 ノボルは邪魔をしないように、境内には入らず、鳥居の脇で参拝をすませた。


 その様子に気づいた女性が顔を向けてきたので、お互いに軽く会釈を交わした。


 それからノボルは、一旦はその場を立ち去ろうとした。


 ………。


 が、不意に足を止めた。


 何かが変だ………。


 それを確かめるために振り返った。


 毎回、ここで出会うたびに神社を掃き清めていたので、きっと、それがこの女性なりの習慣なのかも知れなかった。


 が、ノボルが気になったのはその点についてではない。


 女性の胸の辺りが、どことなくぼんやりとしているような気がしたからだ。


 というより、その部分だけほのかに明るい。


 やっぱり、何かがある………。


 よく見てみると、女性の胸に握りこぶしほどの大きさの白く光る球体のようなものが浮かび上がっていた。


 しかも、頭の上には、まるで天使の輪のような光る円環もある。


 でも、目の錯覚かな………?


 ノボルがそう感じたのは、ちょうど朝日が大地を照らし始めたからだった。


 だから、清々しい陽光がレンズに反射している可能性も考えられるため、ひとまず、ゴーグルメガネを黒縁メガネにかけ替えてみた。


 ………?


 すると、どういうわけか、その二つのものは見えない。


 なので、再びゴーグルメガネにしてみたところ、また現れる。


 ………!?


 そして、その間にも、女性の胸にある白く光る球体はゆらゆらと空へと漂っていき、やがて空間に吸い込まれるようにして消えた。


 どういうことなんだ………!?


 ノボルは戸惑いを覚えてしばし立ち尽くしたものの、とりあえずは再度黒縁メガネに戻すと楠川駅に向かった。

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