第二話 ピラミッドとネックレス①
目を開けると、すでに窓の外が明るかった。
時刻を確認すると、午前六時三十三分。
佐山はソファから立ち上がり、カーテンをあけて空を眺めた。
二つの月に近いところを一筋の光が尾を引いて流れており、光る粉のようなものが降ってきている。
これで二つ目か………。
そう思いながら、夜通しつけっぱなしだった机の上の端末の電源を落とし、電話を手に取った。
着信履歴をみてみると、昨日だけで幸恵から十四回もかかってきたようだった。
きっと、今日もそれ以上の回数になるだろう。
佐山は一つため息をつくと、電話をポケットにしまってから部屋を出た。
◇ ◇ ◇
一階通路の突き当たり右手にある長官室を出た佐山は、向かいの主任室の前を静かに通り、玄関ロビーのほうへ進んだ。
それから会議室とエレベーターを過ぎて階段前に来ると、二階から二人分のイビキが聞こえてきた。
上司が夜通し仕事をしているにもかかわらず………。
そんなことを思いつつ佐山が階段を過ぎると、その先にある待機室の窓から明かりがもれており、中にいるヒナコの姿が見えた。
「ヒナコくん、おはよう」
「あっ、おはようございます………!」
部屋に入ってきた佐山を見たヒナコは驚いたものの、ハキハキと答えた。
その様子からは、すでに出動準備を終えていることがうかがえた。
本京都人と準京都人が一緒に働く現場は何かとギクシャクすることが多い。
その典型がカツヤとダイスケの態度だったが、そんな中でも三玲を支えてくれるスタッフがいることは心強く感じられた。
もちろん、ヒナコだけではなく、タツオやマナブも十分にサポートしてくれていた。
もっとも、三玲の出身がどちらなのかは佐山にもはっきりとは分からなかったが、そのことを詮索するつもりもなかった。
「タツオさんとマナブさんは、もう巡回に出ています。私もこれから行くところなんですが、残りの二人は何度起こしても………」
「連日の激務で疲れているのだろう、少し休ませてあげるといい」
佐山がそう言っている間に、ヒナコはやや慌て気味に窓側の台の上に並んでいる三つのプランターにコップで水をあげていた。
小さな赤い実を無数につけた葡萄のようなもの。
くすんだ茶色と黄土色の花びらが螺旋状にぶら下がっているもの。
甘い紅茶に似た香りのするわらびに似たもの。
どれも見慣れない草花だった。
「そこにあるのは珍しい植物なのかな? あまり見かけたことがないので」
「あっ、はい! そうだと思います! 私も詳しいことは分からないのですが、警察時代の知人がくれたんです。その人は違法植物の分析が専門なんですが、趣味で珍しい野草の採集をしているので、たまにお裾分けをしてくれるんです」
ヒナコはそう言いながら手早く水やりを終えると、ポットの置かれている棚に向かおうとした。
が、佐山はそれを手で制した。
そして、自らカップにコーヒーをいれると、ヒナコに差し出した。
「あっ、ありがとうございます………!」
ヒナコは申し訳なさそうにそれを受け取った。
「君がいてくれてとても助かる。主任もきっとそう思っていることだろう。二人の面倒をみるのは大変だと思うが、よろしく頼む」
「ありがとうございます………! 頑張ります!」
さらに恐縮してしまったヒナコだったが、不意に何かを思い出したような表情になった。
「あの、長官にお渡ししたいものがあります………!」
そう言うと一旦カップを置き、テーブルの上のバッグから封筒を出して持ってきた。
「タツオさんとマナブさんから預かってきました。私の分も入っています。お役に立てていただければ………」
佐山は遠慮気味な様子のヒナコをしばし見つめたあと、両手で封筒を受け取った。
「ありがとう」
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