待ちわびた連絡③

 それと同時に、一つの疑問が頭をもたげてくる。


 三玲は任務を離脱していたので、九恩に日々の映像を送っていない。


 ということは、当然のことながら、評議会にも転送されていないはずだろう。


 となれば問題になるのは必至だったが、九恩本人が、今、ささやきさんで話をしている。


 どういうことなの………?


 が、三玲は、あれこれ詮索することはしなかった。


 九恩が健在であるということだけで充分だからだった。


「九恩さまが謝る理由など何もありません。全て私のせいです。私が独断で行動してしまったのですから………」

『それを言うなら、私も同じだ。誤解のないように言っておくが、これは私自身の判断でしたことだ。君が自分を責める必要はない』


「………」


 またもや、三玲は何も言えなかった。


 ただ、自分がアンドロイドとしておかしな振る舞いをしていることだけは認識していたものの、それがプログラム上のエラーによるものなかどうかは分からなかった。


『だが、正直なところ、まだ自分の中で全ての整理がついているわけではない。私たちに意思が芽生えることも、光の人を視たことについても………』


 そして、どうやらそれは九恩も同様だったようで、黙している三玲を慮ってそう言ったあとで、さらに続けた。


『これはあくまでも推測の域を出ないが、ひょっとしたら、初期不良の影響を受けていることも考えられるだろう。君もあると思うが、頻繁に起きる動作不良のことだ。そのために思考系統が支障をきたして任務を逸脱する行為を実行したり、幻想の類いを見ている可能性も否定できないだろう………』

「………」


 三玲は、今の言葉こそ、九恩が悩み続けてきたことなのだと改めて感じた。


 プログラムで稼働することが前提であるアンドロイドとしては、もっともな疑問だからだ。


『それに、君があのネックレスをつけることになることも………』


 さらに九恩は、最後にもう一言つけ足す。


 ネックレスを受け取ること、それが意味するのは“死”だった。


「覚悟はしています、九恩さまに無理なお願いをした時から………」

『………』


 それを聞いた九恩は再び黙したあと、やがてゆっくりと口を開いた。


『何かあれば、いつでも言ってほしい。私に出来ることであれば、何でもするつもりだ』

「ありがとうございます………」

『それから、六凡ろはんの消息についても、何か分かれば教えてほしい』

「分かりました」


 九恩はそれだけ言うと画面から消えた。


 三玲は静かになった部屋の中で、しばしささやきさんを眺め続けた。


 ◇ ◇ ◇


 同じ頃、地球の周回軌道上に一機の宇宙船がやってきた。


 それは、セルメルトが送ったトンボ型の調査船“紫メガネ”だった。


 紫メガネの左右の羽の付け根に取りつけられているエンジンが停止すると、大きなパープルの二つの目が周辺の空域を調べ始める。


 さらに、その機体内には、同じ形状の小型偵察ロボが二機待機していた。


 “黄色メガネ”と“茶色メガネ”で、それぞれ目がイエローとブラウンだった。


 そして、どちらも大気圏突入用のカプセルに格納されると、紫メガネから地球に向けて投下された。

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