異変の気配②
毎日、駅までのわずかな道のり、徒歩約十五分ほどの距離しかなかったにもかかわらず、ゴミが落ちていない日はなかった。
その一方で、足早に改札や目的地に向かう人たちは、あっという間にノボルを追い越していく。
こんなご時世だから、誰もが自分のことで精一杯なのかも知れない。
道行く人たちの多くが疲れた顔をしていたり、少し不機嫌そうな面持ちをしている。
それでも、今日は十二月二十五日、町中がクリスマスムード一色だったので、どこか和んだ表情の人もちらほら見かけられた。
それも含めて、みんな、いろいろとあるのだろう。
だから、それぞれの立場で出来ることをする。
人と関わる機会が少なくても、何かしら社会の役に立てることはあるはず………。
そんな思いでノボルはまた紙クズを拾い上げたが、向かいから歩いて来た中年男性とぶつかりそうになった。
「すいません………!?」
ノボルは思わず謝ったが、迷惑そうな目で睨まれてしまった。
好意的、批判的、どちらにしろ、そうやって何らかの反応を示す人はごく稀だった。
二十歳そこそこの若者が一人で公共の道の掃除をしていたとしても、大人たちは無関心で通り過ぎていくのが常だったからだ。
それでもノボルはゴミを一つずつ袋に入れていったが、ほどなくすると一人の若い女性の挙動が目にとまった。
ソワソワした様子で、周囲をキョロキョロしている。
何か困り事でもあるのかな………?
ノボルがそう思っていると、その女性は何かを見つけたのか、急に歩道橋のほうに歩き出した。
それから腰を押さえて辛そうにしていた老女に声をかけると、代わりに重たげな荷物を持ってあげたようだった。
それに対して老女はお礼を言っているのか、何度か女性に頭を下げてから一緒に階段を上っていった。
そういう行為は、今ではほとんど見かけることがなかった。
だからノボルは、ひそかに感心しながらもゴミ拾いを再開した。
ところが、しばらくするとまたもや落ち着かない素振りで辺りを見回している人を見つけた。
今度は男性だったが、やはり何かを発見すると信号の脇にある町の案内板に向かった。
そして、道に迷っていたらしき高齢夫婦に声をかけて、目的地までのルートを説明していた。
あの人も、困っている人を………?
滅多にお目にかかれない光景を続けて見ることができたノボルは、束の間ながら、胸がホッコリとした気分に包まれたような感じがした。
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