第四話 異変の気配①

 ・業務内容 重量物の運搬

 ・勤務場所 四区七十三番地

 ・勤務時間 三時間

 ・支給金額 五千二百円(用具準備費・交通費込み)

 ・集合場所 午前九時に綾津駅前


 ノボルは神社から最寄りの楠川駅へと向かう道すがら、今日の仕事についてスマホで再確認した。


 まずは、事務所から案件メールが送られてくる。


 それに対して、スタッフ登録者は勤務可能かどうかの返信をする。


 そして業務終了時には、派遣先の責任者からスマホに電子サインをもらい、事務所にメールで報告する。


 いわゆる、“スリーメールワーカー”。


 人との関わりがほとんどなく、やり取りも最低三通のメールだけで済むことから、この形態の日雇い労働者はそう呼ばれていた。


 自分はスリーメールワーカーになって、すでに何年目だろうか………?


 ノボルは、いつしかそんなことを考えるのもやめていた。


 学歴も、特別な才能も、貯金もなければ、人づき合いも苦手。


 さらには、家族すらいない。


 となれば、収入を得られる仕事があるだけでも幸いなほうだった。


 だから、アパートの家賃と生活費を得るために、できるだけどんな案件でも引き受けていた。


 そうなると、他の人がやりたがらない類いのものが必然的にまわってくる。


 もちろん、ノボルとしても、なるべく楽な仕事を選びたかったが、ただでさえ案件数が少ない上に、生活がかかっている以上はそうも言っていられなかった。


 とはいうものの、勤務地の住所を見ただけで気持ちが沈んでしまいそうにもなるが、まだギリギリセーフだと言えた。


 四区はかろうじて、人の住む場所として見なされているからだ。


 それにしても、気にかかるのは、勤務時間だった。


 たった三時間で五千二百円ももらえるとは、どういうことだろうか?


 ………!?


 と、そんなことを考えながら歩いていたノボルは、とっさに立ち止まった。


 スマホの画面に気を取られていたので、前方にある亀裂に足を踏み込みそうになってしまったからだ。


 歩道から車道にまで伸びる幅数メートルの裂け目。


 しかも、一本だけではなく、あちこちに点在している。


 毎日通る道とはいえ、補修もされずに放置され続けている様子が痛々しく見える。


 さらには、ガードレールが折れて路肩に点々と転がっていたりもする。


 これがノボルの暮らす三区の日常的な光景だった。


 そんな中、通り沿いのショップの店頭や街路樹は華やかに装飾され、サンタや靴下のオーナメントが風になびいていた。


 そして、いつものことながら、ゴミ。


 ノボルはスマホをポケットにしまうと、再びリュックから袋を取り出し、やや下方に視線を落としながら進んだ。

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