第十五話 待ちわびた連絡①
主任室に戻ってきた三玲はそのまま机に向かい、端末のジャックに右手の人差し指の先の細いプラグを差し込んだ。
それからネットで検索をかける。
一つ目のキーワードはピラミッド。
幸いにも、その単語はまだ検閲対象にはなっていないようなので、画面には情報が画像つきで次々と表示されていく。
だが、その大多数はすでに調査済みのものだったので、残りは眉唾的な内容ばかりだった。
とはいえ、三玲と同様に、アレを探している何者かの存在に先を越されないようにしなければならかった。
何としても。
いや、絶対に………。
何故なら、それこそが任務を放棄した理由でもあったからだ。
そんな強い思いを抱きながらも、三玲は別の対象についての検索も並行して行っていた。
二つ目のキーワードはネックレス。
形は七色の羽を持つ蝶。
しかも、真ん中で二つに分かれているもの。
それに関しても、もちろん検閲の対象ではない。
だから、情報自体はそれなりに見つかるものの、ピッタリ該当するものはゼロに近かった。
◇ ◇ ◇
その頃、地球から六十万光年ほど離れた宇宙空間に、ずんぐりとしたカブトムシ型の宇宙船が浮かんでいた。
それは九恩が乗っている司令官専用の機体で、内部は三玲が使っていた観測船とほぼ同じ構造になっていた。
シートの前面には、超望遠レンズで捉えている地球。
相当な距離を隔てているので、小さな光の点でしかない。
それ以外の部分はパネルで覆い尽くされており、地上の様々な様相が映し出されている。
だが、それらのものは、全て過去の映像を再生したものだった。
本来なら、三玲から毎日データが送られてきて、一度、九恩がチェックしたものを賢者評議会に転送することになっていた。
ところが、三玲が地球に降り立ってからは、新たに記録される映像がなくなってしまった。
そのため、九恩は今までのデータに少しずつ手を加えて加工していたのだが、いずれ発覚することは分かっていた。
にもかかわらず偽装を続けていたのは、三玲が任務を離脱したことを隠すための時間稼ぎのためだった。
これでいいだろう………。
右側のアームレストからせり出している小型パネルで加工作業を終えた九恩は、映像を賢者評議会のデータバンクに転送した。
さらに、そのまま画面内にある呼び出しボタンを押すと、瞬時に副議長のセルメルト・ドールマンが映る。
ガサガサした鱗っぽい肌。
張り出した額と頬骨。
見下したような眼光。
「今日の分のデータを送りました」
『のちほど確認する』
九恩が報告すると、セルメルトはそれだけ言って画面から消えた。
どことなく、突き放すような口調だった。
だが、まだ見破られてはいないはずだ………。
そう思いつつも、九恩は次にデータを個別指定した転送先に送信してから呼び出しボタンを押した。
「今日の分のデータを送りました………」
画面に映ったのは、議長のラミア・オバルトだった。
艶のある緑がかった髪。
ガラス玉を思わせる品のある瞳。
知啓を感じさせるふくよかな耳。
『ご苦労さまでした』
ラミアはそう言うと画面から消えたが、九恩はやはりちょっとした罪悪感を覚えていた。
だが、それでもやらなければならなかった。
そうやって、すでに半年近く同じことをしてきたのだから。
そして、気を取り直して、今度は左側のアームレストにあるパネルを操作するために右手を伸ばそうとした。
が、急に動かなくなる。
また動作不良か………。
九恩は左手で右肘のあたりを何度か叩いて不具合を解消させると、パネルにいくつか数値を打ち込む。
数秒後に輸送機の軌道計算結果が表示される。
到達日時 二〇三八年十二月二十五日 午前五時五十九分
それを確かめてから、ささやきさんの発信スイッチを押した。
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