第十四話 三つの事案
佐山は長官室の窓側に置かれた机に向かい、じっと腕を組んでいた。
とりあえず報告書を作成するために仕事用の端末は立ち上げてあるが、手が進まない。
今、佐山が抱えている案件は三つあった。
まず一つ目は、隕石に関することだった。
それは対外的にも堂々と調べることができたが、現時点で発見できていなかった。
二つ目の案件は、カエル化現象。
佐山は端末の右側に置かれている複数の紙を手に取り、それぞれに目を通していく。
半分ほどは植物に関する資料で、薬効や毒性などを知ることができた。
残りは様々な薬品類の情報で、精神への影響や鎮静効果などが詳細に解説されていた。
だが、個々の効能が分かっても、それらのものを組み合わせるとどんな作用がでるのかまではまったく分からなかった。
とはいうものの、カエル化現象を仕掛けていると思われる人物の目星はついている。
必要なのはその関与を裏づける明白な証拠だったが、それを見つけ出すのは至難の業だった。
事は秘密裏に進めなければならないからだ。
そして、三つ目の案件を確かめるため、今度は端末の左側にある数枚の用紙を入念に眺めてみた。
それらは観測機で写した宇宙の様子だったが、やはり探しているものは捉えられていなかった。
佐山は紙を机の上に戻すと再び腕を組んだ。
二つ目と三つ目の案件は隕石調査と違い、表立って調べることはできないという制約があった。
だから、なかなか思うように進まなかった。
結局、新たに報告できることは何もないのか………。
と、佐山がそんなことを考えていた折、呼び出し音が鳴った。
ポケットから電話を取り出してみると、画面には発信者である江森幸恵の名前が表示されていた。
またか………。
それを見るなり佐山は電話を机の上に置いて立ち上がり、応接用のソファーに座って背を預けた。
毎日、何度となくかかってくるので、正直うんざりしていた。
しかも、こちらが応答するまでずっと待ち続けるかのように、いつまでもたっても鳴りやまない。
ところが、ようやく途切れたと思ってみても、すぐにまたかかってくる。
連日、その繰り返しだった。
まるで根比べのように再度鳴り始めた呼び出し音をじっと聞いていた佐山だったが、ほどなくすると消え、それ以降は沈黙し続けた。
どうやら、一旦、諦めたようだった。
部屋に静けさが戻る。
その時、主任室のドアが開く音が聞こえた。
壁時計で時刻を確認すると、午後十一時を過ぎたところだった。
佐山たちがカエル化現象とバタフライ現象への対応を始めて以来、早朝や深夜に出動することが増えてきた。
そのため、観測所の二階にある三つの部屋をスタッフたちの宿直室にしていた。
部屋割りはヒナコが一人、タツオとマナブ、カツヤとダイスケがそれぞれに一つずつだった。
そして三玲と佐山も部下たちと同様に観測所で夜を明かしていたが、二人は一階にある主任室と長官室を使用していた。
今日も、こんな時間まで………。
佐山はソファにうずもれながら、三玲の身を案じた。
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