後悔

 俺は椅子に座りながら外を見ていた。

電車の窓から見える景色はいつもと変わらない。

そういえば彩絵と仲良くなったきっかけも席替えだった。

そう、丁度一年前くらいの出来事だ。


 一年生の頃の俺は正直に言って静かで地味な人間だった。

男友達はいるが静かめな人たちと関わることが多かった。

クラスの一軍と呼ばれる陽キャたちが苦手で俺はありのままの自分を出すことができなかった。

退屈な日々だった、彩絵を好きになる瞬間までは。


「よろしくね! 山下くん! 」


明るい声に反応した俺は彩絵の顔を見上げていた。第一印象は明るくて可愛い女の子だと思っていた。


「席隣なんだ、よろしく・・・」


これが彩絵と初めて会話をした瞬間だった。

この席替えを機会に彩絵と関わることが増えた。

俺と彩絵の距離が一気に縮まったのはLINEのおかげだった。

ある日いつもどおり部活を終えてスマホを見ると彩絵からLINEの通知が来ていた。


「席隣の彩絵です! 追加しましたー!

 やまぴょんっていい名前だね!」


「俺も追加したよ!

 ありがとう! 親友がつけてくれた!」


俺たちが初めてLINEをした日のことは今でもはっきり覚えている。

それくらいに彩絵がLINEを追加してくれたことが嬉しかったんだ。

その日の夜に彩絵と文字を使ってではあるが二時間くらい話をしていた。

彩絵とは趣味が同じで、ノリも良くて何気ない会話がとても楽しかった。


「私、そろそろ寝るね」


そんな文字を見て俺は少しさみしくなったのを覚えている。

この時にはもう彩絵のことが少し気になり始めていたと思う。

そんな俺は勇気を出して電話に誘ってみることにした。早くしないと彩絵が寝てしまう。

焦りと断られてらどうしようという不安が俺を襲っていた。


「明日よかったらさ、電話しない? 」


すぐに既読マークがついたがなかなか返信が返ってこない。

断る口実を探しているのだろうかと考えてしまう。胸が苦しくて仕方がなかった。


「え! めっちゃ嬉しい! 」


そんな彩絵からの返信を見てはしゃいでいた自分が懐かしいと思えた。

それから夜に電話することが多くなりあとはデートに誘って告白だなとまで考えていた。

正直そのころの俺は付き合った姿をイメージするくらいに告白が成功する自信があった。

あいつが現れるまでは。

俺が恋を諦める原因になったのは間違いなくあいつのせいだった。

いつもどおり帰り際に「バイバイ」と伝え、部活の練習着に着替えて練習の準備をしていた。

グラウンドの横を歩く彩絵を見つけた俺は「また明日」と声をかけようとした。

しかしその声が出ることはなかった。

喉の奥になにか詰まってしまったかのように。

彩絵の横にはクラスのボス的な存在であるサッカー部の男子がいた。

俺はそいつのことが大嫌いだった。

他人を見下したり、真面目に努力をしている人を馬鹿にして笑いを取るタイプの人間だ。

そんなやつに大好きだった彩絵の取られたのかと俺はかなり落ち込んだ。

その日の部活は全く練習に集中することができなかった。

次の日にはもう二人が付き合っているという噂が出ていた。

俺は勇気を出して彩絵と仲の良い友だちに二人が付き合ってるのかを聞いてみた。

答えは「わからない」だった。

まだチャンスはあるのだと自分に言い聞かせてはいたが、二人はずっと一緒にいて楽しそうに笑っていた。

俺とは違い自分に自信があり、女慣れしている男だった。

そんなやつに勝ち目はないと俺は諦める方向に気持ちが傾いてしまった。

次の日もその次の日もは二人が一緒に帰る姿を見てしまった。

完全に二人が付き合っている雰囲気になってしまい俺は諦めるしか無かった。

後にその噂はサッカー部の男たちが作り出したデマであることがわかった。

もしあのとき俺が諦めずに彩絵と関わっていたらいじめられていたとサッカー部の友達が教えてくれた。

あいつは俺の恋を無理やり終わらせるつもりだったらしい。

その時は諦めて良かったと思っていたが今考えてみれば自分は愚か者だった。

もし自分が精神的に強かったら彩絵に対する恋心を捨てずに済んだのだ。

告白するタイミング完全に逃した俺はこの先彩絵に気持ちを伝えても遅すぎると考え、彩絵と関わることをやめた。

どんなに願っても時を戻す方法は無いのだから。

これが十七歳の俺が一番後悔していることだ。


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