半人半妖・第1話

 カフェが休み、散歩中にたまたま寄ったコンビニで霧斗は目を惹かれる人間を見つけた。人間、というには少し違う感じがする少年をなんとなく目で追っていると、少年はレジで急に慌て出した。どうやら手持ちの金が少し足りなかったらしい。店員とのやり取りを聞いた霧斗の足は自然と少年に向かっていた。

「お困りですか?」

霧斗が声をかけると少年は可哀想なほどに驚いて霧斗を見上げた。

「す、すみません。財布の中身が足りなくて…」

「いくらです?」

霧斗が少年ではなく店員に尋ねると店員は「100円です」と苦笑した。少年の様子から悪気がなかったことはわかる。おろおろする少年に霧斗は財布から100円を出して店員に渡した。

「ありがとうございました」

「えっ!あの!?」

店員は100円を受けとるとさっさと会計をする。少年はますますおろおろしてしまって、霧斗は苦笑しながら少年と一緒にコンビニを出た。

「100円くらい気にしないで」

「いえ!そういうわけにはいきません」

コンビニを出るなり「ありがとうございました」と頭を下げる少年に霧斗が笑って言うと少年は首を振った。

「あの、お急ぎですか?これから父と待ち合わせなので、父に会えばお金すぐに返せます」

「特に急いではないけど、本当に気にしなくていいよ?」

霧斗の言葉に少年はぶんぶんと首を振った。

「お礼をしたいので。あ、あの、僕は早瀬蓮といいます」

「俺は小峯霧斗」

霧斗も名乗ると蓮と名乗った少年は笑顔で「よろしくお願いします」と頭を下げた。


 蓮は霧斗を連れて近くの公園に行った。そこで父親と待ち合わせらしい。父親を待つ間雑談をしながら蓮が二十歳であることを知った。だが、蓮は外見的にも内面的にも二十歳というには幼い印象だった。

「蓮くんのお父さんは何をしているの?」

「普通の会社員ですよ。今日は仕事が早く終わるそうで、一緒に買い物して夕飯を食べて帰ろうって約束してるんです」

そう言って嬉しそうに笑う蓮は高校生か中学生くらいに見えた。蓮自身は会社で働いているわけではないらしく、自宅で絵を描いているのだと言っていた。

「蓮!」

しばらく霧斗と蓮が話をしていると、声をかけてスーツ姿の男性が駆け寄ってきた。

「父さん!」

ベンチに座っていた蓮が立ち上がる。霧斗も立ち上がると蓮の父親らしき男性は不審そうに霧斗に目を向けた。

「蓮、こちらは?」

「えっと、さっきコンビニで小銭が足りなくて、貸してもらったんだ。父さん、100円持ってる?」

蓮の言葉に男性は目を丸くし、申し訳なさそうに自身の財布から100円玉を取り出して霧斗に渡した。

「ご迷惑をおかけしました。蓮の父親の早瀬徹です」

「いえ、気にしないでください。俺は小峯霧斗といいます」

深々と頭を下げる徹に霧斗は苦笑して名刺を差し出した。

「祓い屋?」

霧斗の名刺を見て徹が眉間に皺を寄せる。霧斗は苦笑しながら祓うだけではないと言った。

「祓い屋というのが一番わかりやすいと思ってそう名乗っているだけで、なんでもかんでも祓うわけではありません。もし何かお困りのことがあったらいつでもご相談ください」

霧斗はそう言うと徹と蓮に別れを告げて公園をあとにした。

「青桐、あの子、どう思う?」

公園を出て歩きながら影に向かって小声で尋ねると、耳元で返事が聞こえた。

「あれは半分妖だな。父親は人間のようだから、おそらく母親が妖なのだろう」

「なるほど。だから違和感があったし、見た目も中身も年齢のわりに幼いのか」

青桐の言葉に霧斗は納得したようにうなずいた。

 人間と妖では寿命が圧倒的に違う。人間では二十歳は成人だが、妖ではまだまだ赤子も同じだ。そして、人間と妖、あるいは人間と神といった異類婚は多くはないが、決してないことではなかった。そうして生まれた子どもは妖ほどではないが、人間よりは寿命が長く、成長がゆっくりだ。昔なら気味悪がられ生きていけなかったかもしれないが、現代ならばある程度までは少し個性的な人として受け入れられるだろうと思われた。

「彼はこれからのほうが大変そうだな」

これから生きていくうちに童顔ではすまされないほど年齢と外見の解離が出てくるだろう。そうなったとき、あの純粋な少年はどうなるのだろうと思うとこの先が少し心配だった。

「他人のことを考えたとてせんないことよ。主もそろそろ妻を娶ってもよい年ではないか?」

青桐の突然の言葉に霧斗は盛大に咳き込んでしまった。

「ゲッホ!ゲッホ!お前、どこでそんなの聞いてきた!?」

「何、先日小峰神社の宮司と話していたのを聞いただけだ」

しれっとした声で言う青桐に霧斗はため息をついた。先日、神社を訪れた際、確かに伯父にそろそろ浮いた話のひとつでもないのかと言われたのだ。そのまま見合いでもさせられそうな雰囲気だったので霧斗は慌てて帰ってきたのだ。まさか青桐が影の中から見ていたとは思わず、霧斗は恥ずかしさに頭を抱えてしまった。

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