人喰い鬼・第10話

 鬼を倒してから数日後、警察から護星会を経由して霧斗の依頼料が振り込まれた。

 霧斗たちからの報告を受けた警察はまさか鬼が犯人だったと発表するわけにもいかず、表向き事件は迷宮入りをすることになった。

「あれ以上犠牲者を出さずに事件が片付いてよかったよ」

カフェにやってきた高藤がカウンターに座ってコーヒーを飲みながら言う。晴樹は小さく微笑むと高藤にケーキを出した。

「みんな怪我がなくて何よりでした」

「今日は霧斗は?」

高藤が尋ねると晴樹は肩をすくめて「休みです」と言った。

「警察のほうに呼ばれているみたいですよ。高藤さんのほうが詳しいのでは?」

クスッと笑った晴樹に高藤はにこりと笑った。そこへテーブルを拭いていた楓が戻ってくる。高藤は興味深そうに楓を見て目を細めた。

「はじめまして。噂は色々と聞いているよ」

「どんな噂だか」

楓は高藤を一瞥すると布巾を片付けた。

「楓ちゃんはうちの看板娘です。手は出さないでくださいね?」

晴樹の言葉に楓は鼻を鳴らし、高藤はにこりと笑った。


 警察から呼び出された霧斗と百瀬は別々に事情聴取を受けた。連続猟奇殺人事件の犯人は鬼だと言っても中々信じない刑事たちからの質問は数時間に及び、やっと解放されたふたりはぐったりしていた。

「すみません。大丈夫ですか?」

一ノ瀬が申し訳なさそうにしながらふたりにコーヒーを差し出す。ふたりは苦笑しながらそれを受け取った。

「ありがとうございます」

「いただくわ」

コーヒーを飲んで一息ついた百瀬は時計を見ると立ち上がった。

「ごちそうさま。私はこのあと予定があるからもう行くわね」

「わかりました。今回はありがとうございました」

霧斗も立ち上がって礼を言うと百瀬はにこりと笑ってうなずいた。

「こちらこそ。また何かあったらよろしくね。今度は客としてカフェに行くから」

「はい、お待ちしています」

霧斗がうなずくと一ノ瀬が改めて礼を言う。百瀬はそれにうなずくと警察署を去っていった。

「一ノ瀬さん、あれから色々大丈夫でしたか?」

普通の人間が鬼を見るなどということはかなりショッキングなことだろう。何か影響が出ていないかと尋ねる霧斗に一ノ瀬は苦笑しながら肩をすくめた。

「悪夢に魘されたりはありますが、大丈夫ですよ」

「あまりひどいようなら、これを使ってみてください。寝るときに枕の下に入れてください。数日で効果があると思います」

そう言って霧斗が差し出したのは一枚の符だった。しかし、それは普通の符とは少し違っていて、微かにラベンダーの香りがした。

「ありがとうございます。使ってみます」

一ノ瀬は符を受け取ると頭を下げた。

「じゃあ俺もそろそろ行きます。もしまた何かあったらいつでも連絡ください」

霧斗はそう言うと一ノ瀬の一礼して警察署をあとにした。


 ショッキングなニュースとして世間を騒がせた連続猟奇殺人事件はこうして幕を閉じた。

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