開かずの箱と夢・第2話
霧斗は川瀬と南に断って席を立ち、事務室に入ってから若宮に連絡をとった。
名刺に書いている携帯番号に電話をかけると、しばらくコールが鳴ったあと若い男が電話に出た。
「…もしもし?」
「もしもし、小峯といいます。先日、俺の式神からあなたの名刺をもらいました。俺の式神が助けた人、で間違いありませんか?」
警戒心が剥き出しの声に吹き出しそうになりながら霧斗が尋ねると、電話口の男の声はパッと明るくなった。
「あ、そうです。あなたがあの式神の主さんですか。えっと、助けた借りをあなたに返せと言われたんですが、連絡がきたってことは俺が役にたつことがあるんですか?」
「はい。あなたは目がいいと聞いています。少し見てほしいものがあるんですが、今から時間はありますか?」
そう言って霧斗が場所を伝えると、若宮は20分ほどで行くと言って電話を切った。
「さっそく役にたったな」
電話を切ると霧斗の影から青桐が顔を覗かせて笑う。霧斗は小さく笑いながらうなずいた。
「そうだな。助かったよ。青桐、あの箱をどう思う?」
「あれは守りの力が強い。夢は別のものだろう。だが、あの箱があるから夢程度ですんでいるともいえるぞ」
「やっぱりそうだよな。少し厄介かもしれないな」
霧斗は険しい表情で言うと大きく息を吐いて気持ちを切り替え、南と川瀬が待つテーブルに戻った。
「霧斗さん、どうだった?」
「大丈夫。20分くらいで来てくれるって。川瀬さん、時間は大丈夫ですか?」
「はい。今日は講義ももうないし、バイトも休みなので」
テーブルに戻ってきた霧斗に南が尋ね、それに答えながら霧斗が川瀬に予定聞く。時間はあると聞いた霧斗は春樹に紅茶とアップルパイを人数分頼んだ。
「とりあえず頼んだ人がくるまで美味しいものでも食べて待ちましょう」
「やった!今日はアップルパイ残ってた!」
アップルパイは人気なのだが入荷は少なく、昼には完売してしまうことが多かった。
「今日はこんな天気でしょ?お客さまが少なかったの。これはあたしの奢りよ」
「やった!」
晴樹の奢りという言葉に南が歓声をあげる。川瀬は申し訳なさそうにしていたが、霧斗が大丈夫だから気にするなと言うと美味しそうにアップルパイを食べていた。
カラン。20分と少し待った頃、店のドアが開く音がする。霧斗が目を向けると、入ってきたのは若い男だった。男は霧斗に気づくとまっすぐテーブルにやってきた。
「小峯さんですか?若宮です」
「はい、小峯です。急に呼び出してしまってすみませんでした」
霧斗は簡単に挨拶を交わすと若宮を自分の隣に座らせた。
「こちらは依頼人の川瀬真帆さんです。隣は彼女の友人の南くん」
「はじめまして」
「若宮です。よろしくお願いします」
霧斗から紹介されると川瀬が頭を下げる。若宮も頭を下げると、次には箱に目が釘付けになっていた。
「見てほしいのはその箱なんです。中に強い力を持った何かが入っているのはわかるんですが、俺の目では何が入っているのかまではわからなくて。封じてあるようで開かないんです」
「なるほど。確かに強い力があるものが入っていますね。触っていいですか?」
川瀬に許可を取って若宮が箱を手に取る。若宮は箱を光に透かすようにしながらじっと見つめた。
若宮が箱を見つめること数分、ふうっと大きく息を吐いた若宮は箱をそっとテーブルにおいた。
「どうですか?」
「見えました。その前に、この箱はどうやってあなたの元にきたんですか?」
「えっと、先日祖母にもらったんです。お守りになるからって」
「お守り。なるほど」
川瀬の話を聞いた若宮が納得したようにうなずく。若宮は霧斗からメモ帳とペンを借りると何か絵を描きだした。
「箱の中に入っているものは、こういうものです」
そう言って描いた絵を見せる。メモ帳に描かれていたのは人の指のように見えた。
「あの、これは…」
「たぶん、人間の指だと思います」
「っ、どうして、そんなものが…」
中身が人間の指と聞いて川瀬が青ざめる。普通に生活していて人間の切断した指に出会う可能性などほぼゼロなのだから仕方がない。霧斗が少し休むかと尋ねると、川瀬は首を振った。
「すみません、大丈夫です」
「気分が悪くなったらいつでも言ってくださいね?」
若宮は心配そうな顔をしながら「悪いものではない」と言った。
「たぶん、この指の持ち主はとても力がある人だったんだと思います。自分の体の一部に守護の術をかけて、お守りにしたんだと思います」
「中身が指だと気味悪がられるから開けられないように封じをしたのかな」
霧斗の推察に若宮は「たぶん」とうなずいた。
「だから、指と聞くと気味が悪いとは思いますが、これ自体はあなたを守ってくれるものです」
「問題はやっぱり夢のほうか」
険しい顔をして霧斗が呟く。すると、若宮が「夢とは?」と尋ねてきた。霧斗が川瀬が見る夢について話すと、若宮は自分が少し見てみようかと言った。
「えっと、川瀬さんの手に少し触れていいですか?それで川瀬さんが見た夢を見れるかもしれないんで」
「そんなこともできるんですね」
霧斗が驚いて言うと、若宮は苦笑しながら肩をすくめた。
「見るということにかけては色々できるんですが、それだけなんですよね」
「それだけでも結構すごいと思いますよ」
霧斗の言葉に若宮は少し嬉しそうに笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます