高藤・第3話

 霧斗がVIPルームを出ていくと、高梨は無意識にほうっと息を吐き出した。

「ふふ、あの子に任せればたぶん大丈夫だと思うよ」

「高藤さまの推薦ですから、期待しています」

高藤の言葉に気を取り直して高梨が言う。高藤はクスクス笑うとワインを飲んだ。

「あの子は団体行動には向かないが、腕は一流だ。だけど、誰を組ませるつもりなんだい?」

「…百瀬さんをと思っています」

高梨の言葉に高藤は意外そうに片眉を上げた。

「百瀬か。彼女が誰かと組むのは珍しいな。本人の希望かい?」

「はい。霧斗さんに依頼を持ち込むという話を聞いたらしく、短期間所属してフリーになった霧斗さんに興味があると」

「なるほど。まあ、たまにはいいんじゃないかな。もしかしたら相性がいいかもしれないし」

クスクスと楽しげに笑う高藤に内心ため息をつきつつ高梨は荷物を片付けて立ち上がった。

「それでは、私もこれで失礼させていただきます」

「おや、老人ひとりおいていくのかい?」

「ご冗談を。高藤さまと飲むと私が明日使い物になりません」

酒豪で知られた高藤と飲めるわけがないと下戸の高梨が首を振る。高藤はそれ以上ひきとめるでもなく高梨を見送った。


「もしもし。高梨です。例の件。引き受けていただけました。日程は決まり次第私のほうに連絡がきます。同行させるこちらの術師は予定どおり百瀬夏樹で登録をお願いします」

バーを出た高梨は護星会の事務所に電話をして霧斗が依頼を受けてくれたこと、同行させるのは予定どおり百瀬であることを伝えた。

「百瀬さんには私から連絡をしておきますので」

そう言って電話を切った高梨が今度は百瀬のスマホに電話をかける。だが、着信音は高梨のすぐ後ろから聞こえた。

「…百瀬さん。つけてたんですか?」

「えー?そんなわけないじゃない。私そんなに暇じゃないのよ」

百瀬と呼ばれた髪の長い女性はくすりと笑うとスマホの着信を切った。

「依頼、引き受けてもらえたんだ?」

「はい。元々高藤さまからのご推薦ですから。よほどのことがなければ断らないでしょう」

「高藤さんが目をかえてる子だっけ?」

三十路をすぎたばかりの美貌の術師は楽しげに目を細めると高梨に手を差し出した。

「…何か?」

「何かじゃないわよ。あるんでしょ?その子の資料」

はあ、とため息をついて高梨が鞄から霧斗についての資料を取り出す。とはいえ顔写真と簡単なプロフィール、護星会に所属していたときに請け負った仕事内容が書いてあるだけだった。

 ざっと目を通した百瀬は資料を高梨に返すとにこりと笑った。

「私より若いけど、腕は確かみたいね。フリーなんて大変でしょうに、なんで辞めちゃったの?」

「組織に所属するということが肌に合わないと辞めたそうです」

「あはは!何それ!それでフリーになっちゃうなんて根性あるわね」

楽しそうに笑う百瀬は「楽しみだわ」と言って高梨の肩を叩いた。

「連絡きたらすぐに教えてね?」

「わかりました」

うなずいた高梨に手を振って百瀬は雑踏に消えていった。それを見送りながらため息をつく高梨であった。

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