第13話


「第一志望は香崎大学ね。まだ二年生も始まったばかりだし進路もなんとなくの方向は決めて、細かくはこれからの学力の伸び次第。だから、もっと偏差値高いところ狙っても大丈夫ですよ。今は得意な教科はある?」 


「歴史くらいです。ほかの教科は全然だめで」

 

僕は少しばつが悪そうに言うと、全然気にしないで、と先生は明るく言った。


「歴史ね。暗記が得意なのかな。まだ高校生活は二年もあるのだから暗記も気づけば覚えられてますよ。ちなみに古久根君は将来やりたいこと決まっている?」 


「いえ、特には」


昼の休憩時に空き教室に呼ばれた僕は、樅山先生と二者面談をしていた。


「そう。文理選択はこれからだし、どっちを選んでもいいと思うけど。だからといって勉強で手は抜かないようにね。―――。進路の話はこれくらいにして。先生古久根君の事情は大体分かっているつもり。転校して来てまだ日は浅いけど、クラスには馴染めてきた?」


「自分ではどうなのかよく分からないのですが、喋り相手くらいはいますよ」


「そう、それはよかった。親族の方から聞いたのだけれど、両親を早くに亡くして今はアパートに一人で住んでいるのよね。学校にたまにしか来れないのは仕方の無いことだからあんまり気にしすぎないようにね。それより先生も実は一人暮らしで自炊経験は豊富なんですよ。何か困ったことがあれば聞いてくださいね」

 

先生は僕の発言をたまにメモを取りつつ、基本は僕の目を見た状態で話しかけてくる。

 

こんな美人の先生が独身であることに驚きつつ、僕は先生の言った親族は誰だろうと考えていた。


両親や兄とはもう二十年来連絡を取っていない。

自分の子供や弟に興味のない人たちで自分たちだけの時間を楽しく過ごしていることだろう。


僕への疑いのなさや、共感や配慮の様子からして、ヤマモトさんが親族と偽って上手く虚偽の説明をしたのだろう。


「何か困ったことがあったら気軽に相談してね。そのための担任でもあるので」 

そう言って先生はにこっと笑った。


しわ一つ感じさせない可愛らしい笑顔だった。

生徒間での人気は高そうだなと思った。


「そういえば最後に。最近はよく眠れてますか?」


「はい。僕、眠ることに関しては困ったことないので」 


僕は少し自信ありげに応える。


「そう、それはとても良いことね。精神と睡眠は繋がっていると先生は思います。体は自分の心に正直なんですよ。では午後の授業も頑張ってね」


優しい先生だな、と教室に戻りながら思った。

先生が学生だったらクラスの中心にいて、みんなに優しく、そしてみんなからも優しく愛されるような存在だったのだろうなと考察する。



教室に戻ると隣の席に座っている片山が僕を待っていたらしく、教室に入った瞬間に目が合って、早く、といった感じで手招きをしていた。


「遠足のバーベキューで肉とか野菜とかメインの食材は学校で用意してくれるんだが、その他の食材は班ごとに自由に持ち込み可なんだとよ。焼きそばとか焼きマシュマロとか作りたいだろ。と言うことで明後日に買い出しに行きたいんだけど、虎は大丈夫か?」

 

残念ながら明後日は寝て過ごすことになっている。


「大丈夫じゃないな。だけど皆で行ってきなよ。僕は何買ってきたか当日まで楽しみに待ってるからさ」 


片山は少し残念そうな顔をするが、


「虎がそう言うなら。あと割り勘のつもりだけど、虎バイトやっててお金いっぱい持ってるから一人で半分くらい払っちゃう?」 

と商人のような手癖をして僕の様子をうかがっている。


「バイトやってるからってお金いっぱい持ってると思い込むのはやめろ。むしろ逆だから。お金がないからバイトやってる」 


「知ってた。じゃあ当日まで楽しみにしてろよ」


丁度、片山からラインのグループ招待が来ていたので、まずは片山を友達登録する。


それから既にグループの大方の人数がそろっているラインのグループに入った。


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